ポジショニングマップとは
ポジショニングとは、自社の商品やサービスを、お客さんの頭の中で、競合と比べてどこに置いてもらうかを決めることです。ポジショニングマップは、それを縦と横の2つの軸で図にしたものです。軸には、お客さんが頼む先を決めるときの条件を取ります。自社と競合は、お客さんからその条件でどう見えているかに合わせて置きます。
1枚にすると、3つのことが見えます。1つ目は、自社がどこにいるかです。2つ目は、自社と同じ場所に誰がいて、誰とは離れているかです。近くにいる相手とは、同じ条件で比べられやすくなります。3つ目は、まだ誰もいない場所です。
ポジショニングは、誰に向けて、どの立ち位置で売るかを決める工程の一部です。市場をお客さんの違いで分け(Segmentation)、狙う相手を決め(Targeting)、その相手に対して自社をどこに置くかを決める(Positioning)。頭文字を取ってSTPと呼ばれます。ポジショニングマップは、このうち最後の段で使います。
その手前には、3C分析やSWOT分析があります。SWOT分析では、書いた一覧を「どの強みを、どの機会に生かすか」の一文に絞り、STPへ渡します。その一文の強みが、お客さんから見て競合との違いになっているかを確かめるのが、ポジショニングマップの役目です。一文の絞り方はSWOT分析の記事で、値下げしなくても選ばれる理由の確かめ方は3C分析の記事で解説しています。
ポジショニングマップは、お客さんが頼む先を決める条件を2つの軸に取り、自社と競合がどう並んで見えているかを1枚に表した図です。
ポジショニングマップを作る目的と、使う場面
ポジショニングマップを作る目的は、自社がどの条件で、どの相手と比べられているかを見て、何で違いを出すかを決めることです。違いを出す条件が決まれば、ホームページや営業資料で何を前に出すかも決めやすくなります。社内で同じ1枚を見ながら話せるので、営業と制作、経営者のあいだで、伝える内容をそろえやすくなります。
作るのは、たとえば次のような場面です。
| 場面 | マップで決めること |
|---|---|
| 見積もりで比べられ、値下げを求められた | 値段のほかに、どの条件で選ばれているか(選ばれていないか) |
| 新しい商品やサービスを出す | どの相手と、どの条件で違いを出すか |
| ホームページや営業資料を作り直す | 何を前に出して伝えるか |
どの場面でも、マップを描くこと自体が目的ではありません。マップを見て、何で違いを出すかを決めるところまでが1つの作業です。
ポジショニングマップを作る目的は、自社がどの条件で、どの相手と比べられているかを見て、何で違いを出すかを決めることです。
ポジショニングマップの作り方(5つの手順)
ポジショニングマップは、次の5つの手順で作ります。
- 決め手を集める:お客さんが頼む先を決めた理由を、最近の受注と失注から集める
- 軸を2つ選ぶ:集めた決め手から、縦と横に置く2つを選ぶ
- 置く相手を選ぶ:お客さんが実際に比べた相手を選ぶ
- 自社と相手を置く:2つの軸で、それぞれの位置を決める
- 自社の位置と空いている場所を読む:どこで違いを出すか、空いている場所を狙うかを決める
手順1と2は第4章で、手順3と4は第5章で、手順5は第6章で説明します。手順1の決め手の集め方は、KSF(重要成功要因)の記事で解説しているやり方をそのまま使います。例も、同じ架空の部品加工会社で見ていきます。急ぎの小口の試作を請け負う会社です。
ポジショニングマップは、決め手を集める、軸を2つ選ぶ、置く相手を選ぶ、自社と相手を置く、自社の位置と空いている場所を読む、の5つの手順で作ります。
軸は、受注・失注の決め手から2つ選ぶ
軸を決めるときは、お客さんが商品を買ったり、仕事を頼んだりするときに重視する要因(KBF)を洗い出すのが基本です。そのために、お客さんにインタビューやアンケートをする方法がよく紹介されます。
ただ、少ない人数の会社では、聞きに行く前に、手元の記録の中に答えが見つかることが少なくありません。最近受注した案件と、受注できなかった案件で、お客さんが何を決め手にしたかの記録です。KSFの記事と同じく、この記事でも、お客さんが実際に頼む先を決めた理由を「決め手」と呼びます。
部品加工会社の、最近の受注3件と失注3件の決め手を数えると、次のようになりました。1件に決め手が2つあれば、2つとも数えます。決め手の書き出し方と数え方は、KSFの記事で詳しく解説しています。
関連記事KSFとは?意味と、受注・失注の決め手から見つける方法【テンプレート付き】
| 決め手 | 件数 | ほかの決め手と一緒に動くか | 軸にするか |
|---|---|---|---|
| 見積もりがその日のうちに届く | 2件(受注2) | 動きにくい | 横軸にする |
| 表面処理まで、まとめて頼める | 2件(失注2) | 動きにくい | 縦軸にする |
| 価格が安い | 1件(失注1) | — | 軸にしない(下で説明) |
| 1個から受けてくれる | 1件(受注1) | — | 残しておく |
| 工場が近く、すぐ来てくれる | 1件(受注1) | — | 残しておく |
※架空の部品加工会社の例。
軸にする決め手は、次の2つの条件で選びます。
1つ目は、何度も出てくることです。1件にしか出ない決め手を軸にすると、その1件のお客さんの見方でマップを描くことになります。部品加工会社では、2件以上に出た決め手が「見積もりがその日のうちに届く」と「表面処理まで、まとめて頼める」の2つでした。
2つ目は、互いに関係が薄いことです。一方が高いともう一方も高くなる(または低くなる)ような2つを選ぶと、どの会社も斜めの線の上に並び、2つの軸で見る意味が薄れます。よく挙げられる例が、価格と品質です。品質が高い会社ほど価格も高い、という並び方になりやすいからです。見積もりの速さは見積もりの出し方で、まとめて頼める範囲はどの工程まで受けるかで決まります。片方が分かっても、もう片方は分かりません。並べてみて、置いた会社が斜めの一列に並んだら、2つの軸が一緒に動いていないかを疑います。2件以上に出た決め手が3つ以上あるときは、件数の多いものから順に組み合わせを作り、一緒に動かない2つを選びます。
価格を軸にするかは、別に考えます。価格は、多くの業種で決め手に挙がります。ただ、価格を軸に置くと、自社が値段で戦うつもりがあるかどうかにかかわらず、安いか高いかで並べることになります。
私が関わった仕事で、同業の会社の広告を並べて整理したとき、最初は価格を軸に置いていました。ところが、依頼してくれた会社には、もともと安さで戦うつもりがありませんでした。価格の軸で並べても、その会社が取れる打ち手は出てきません。そこで、価格を軸から外して並べ直しました。
価格を軸にするかは、自社が値段で戦うつもりがあるかで決めます。値段で戦うつもりがないのに、価格が何度も決め手に出てくるなら、お客さんから見て、値段のほかに比べるところが見えていないのかもしれません。そのときは、マップの軸にするより、値下げしなくても選ばれる理由を取り出せているかを確かめるほうが先です。その確かめ方は、3C分析の記事で解説しています。軸にしない場合も、価格で失注した記録は消さずに、決め手の表に残しておきます。
記録が少ないとき、決め手に「不明」が多いとき、新しい事業でまだ受注が無いときは、お客さんに聞いて足します。聞く相手は、最近頼んでくれたお客さんと、見積もりまで出したのに、ほかの会社に頼んだお客さんです。記録から拾える分を先に拾っておくと、聞くことを、記録に無いことに絞れます。
決め手を書き出すのは、お客さんとやりとりしている営業の担当者です。軸を2つ選ぶのは、経営者です。営業を兼ねる管理職なら、仮に2つ選んで、経営者と決めます。
ポジショニングマップの軸は、新しく聞きに行く前に、最近の受注と失注の決め手から、何度も出てきて互いに関係の薄い2つを選びます。
置く相手は見積もりで比べられた相手、自社の位置は失注の理由で確かめる
軸が決まったら、マップに置く相手を選びます。
業界の大手や、名前を知っている会社を並べたくなるかもしれません。ただ、お客さんが実際には比べていない相手を置くと、マップは埋まっても、自社が比べられている場面は見えてきません。置くのは、見積もりで実際に比べられた相手です。お客さんの記録を表で付けていれば、「比べた相手」の列から拾えます。記録の項目の決め方は、CRMの記事で解説しています。
関連記事CRMとは?意味と、ツールを選ぶ前に決める記録の項目【テンプレート付き】
比べた相手の会社名が分からないことは、よくあります。その場合は、「表面処理まで受ける加工会社」「ネットの試作サービス」のように、どんな会社かを書けば、マップに置けます。比べた会社の数しか分からないときは、相手を「不明」とし、次からは、断られたときに、どんな会社に決まったかを聞くようにします。
部品加工会社では、比べられた相手のうち、分かっているのは次の2つでした。ネットの試作サービスは、価格で決まった失注①のお客さんに、あとで聞いて分かった相手です。表面処理まで受ける加工会社は、失注②・③の理由から分かります。
| 相手 | どの案件で比べられたか | 見積もりの速さ | まとめて頼める範囲 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| ネットの試作サービス | 失注①(価格で決まった) | 自社より速い(図面を送ると自動で見積もりが出る) | 加工だけ | 相手は聞いた、速さは調べた(相手のホームページ)、範囲は推測 |
| 表面処理まで受ける加工会社 | 失注②・③(表面処理まで、まとめて頼めた) | 不明(真ん中に仮に置いた) | 表面処理まで | 範囲は記録、速さは推測 |
| 自社 | — | その日のうち | 加工だけ | 受注①・②の決め手、失注②・③の理由 |
※架空の部品加工会社の例。失注②・③が同じ会社かは不明。ほかの比べた相手は不明。
次に、自社を置きます。自社の位置を自分で決めると、強みの側に寄りがちです。社内で強みだと思っていても、お客さんの決め手には挙がらないことがあるからです。
自社の位置は、強みの側は受注の決め手で置き、足りない側は失注の理由で確かめます。部品加工会社では、失注の2件の理由が「ほかの会社は表面処理まで、まとめて頼めた」でした。頼める範囲の軸では、自社は「加工だけ」の側にいます。見積もりの速さは、受注の2件の決め手が「見積もりがその日のうちに届いた」なので、速い側に置けます。
置いてみると、受注の決め手だった見積もりの速さでも、自社より速い相手がいます。図面を送ると自動で見積もりが出る、ネットの試作サービスです。部品加工会社がSWOT分析で強みに置いた見積もりの速さは、この相手と比べられたときには差になりません。
位置は、細かく測らなくてかまいません。テンプレートでは、それぞれの軸を1から5の5段階で置きます。分からない位置は、推測の印を付けて仮に置きます。表面処理まで受ける加工会社の速さは、記録にありません。そこで、速さの軸の真ん中に仮に置きました。推測で置いた位置は、次に比べられたときに聞いて確かめ、分かったら置き直します。
比べた相手を書き出すのは、営業の担当者です。位置は、経営者と営業の担当者が一緒に置きます。
置く相手は見積もりで実際に比べられた相手から選び、自社の位置は、自分で決めずに失注の理由で確かめます。
空いている場所は、狙う前に「その条件を求めるお客さんがいるか」を確かめる
自社と相手を置くと、誰もいない場所が見えてきます。空いている場所は、競合のいない狙い目と言われることがあります。
ただ、ある場所が空いている理由は、いくつか考えられます。その条件を求めるお客さんがいるのに、まだ誰も応えていないこと。応えるには手間や費用がかかるので、まだ誰もやっていないこと。そして、その条件を求めるお客さんが、そもそもいないことです。マップを見ているだけでは、これらは区別できません。区別するには、まず、その場所の条件を求めたお客さんが、問い合わせや失注の記録にいたかを確かめます。記録に残るのは、自社に問い合わせてきたお客さんだけです。記録にいなくても、問い合わせてこなかっただけということもあるので、迷うときは、比べた相手に決めたお客さんに聞きます。
部品加工会社のマップでは、表面処理まで受ける加工会社の速さが分からないので、真ん中に仮に置きました。その会社が速ければ右上が、遅ければ左上が埋まります。左上は、その会社が速いときにだけ空く場所で、見積もりが遅いことを求めて頼むお客さんも考えにくいので、ここでは外します。確かめるのは、空いているかがまだ決まらない右上と、はっきり空いている左下です。
| 空いている場所 | その場所の条件 | 記録にいたお客さん | 決めること |
|---|---|---|---|
| 右上 | 見積もりが速くて、表面処理までまとめて頼める | 失注②・③のお客さんが、表面処理まで頼みたかった。見積もりの速さも求めていたかは、まだ確かめていない | 求めていたなら、表面処理まで受ける体制を作るかを考える |
| 左下 | 見積もりが遅くて、加工だけ | いない | いまは狙わない |
※架空の部品加工会社の例。
左下は、見積もりが遅く、加工しか頼めない場所です。空いていますが、いまの記録の中に、ここを求めたお客さんはいません。記録からは、狙う理由が見つかりません。
右上は、見積もりが速く、表面処理までまとめて頼める場所です。失注②・③のお客さんは、表面処理まで頼みたかったことが分かっています。確かめるのは、その2件のお客さんが、まとめて頼めることに加えて、見積もりの速さも求めていたかどうかです。求めていたなら、右上の条件を求めるお客さんがいることになります。求めていなかったなら、2件のお客さんが求めていたのは、まとめて頼めることだけです。その場合は、表面処理まで受ける加工会社と同じ条件で比べられることになり、自社の見積もりの速さは決め手になりません。
見積もりをいつまでに欲しいと言われていたかは、経過の列や、見積もりを頼まれたときのメールで見ます。どちらにも無ければ、そのお客さんに聞きます。書いていないだけで、速さを当然と思っていたお客さんもいるからです。あわせて、第5章で推測で置いた、表面処理まで受ける加工会社の速さも確かめます。その会社が速いなら、右上は空いていないからです。
右上が空いているとしたら、見積もりの速さを保ったまま表面処理まで受けるには協力会社と組む手間がかかり、まだ誰もやっていないからかもしれません。部品加工会社は、KSFの記事で、表面処理の協力会社と組めるかを次の四半期までに確かめることにしていました。組むか、急ぎの試作だけを頼みたいお客さんに絞るかを決めるときに、右上の条件を求めるお客さんがいるかどうかが材料になります。
空いている場所の条件を求めるお客さんがいるかを確かめるのは、経営者です。記録で分からないことを聞くのは、営業の担当者です。
空いている場所が見つかったら、狙う前に、その場所の条件を求めたお客さんが、問い合わせや失注の記録にいたかを確かめます。
見直す時期と、自社でやること・頼めること
ポジショニングマップは、一度作って終わりではありません。新しく受注や失注が出るたびに決め手を書き足し、四半期に1回を目安に、件数を数え直します。KSFの記事と同じ時期です。数え直して、よく出てくる決め手が変わったら、軸を選び直します。比べられた相手が増えたら、その相手も置きます。とくに、失注の理由に新しい条件が出てきたら、置き直すきっかけになります。
決めた位置を、ホームページや営業資料、SNSで伝え続けることは、ブランディングの仕事です。選ばれる理由を決めて発信し続けることについては、ブランディングの記事で解説しています。
関連記事ブランディングとは、選ばれる理由を決めて発信し続けること
作業は、自社でやることと、外に頼めることに分かれます。
決め手と比べた相手を記録から拾うこと、マップに置くこと、空いている場所を記録で確かめることは、自社でやります。記録を持っているのは、自社だけだからです。軸の選び方は、制作会社やマーケティングの支援会社に一緒に考えてもらえます。決めた位置をもとに、ホームページや営業資料で何を前に出すかを決めて作ることも頼めます。
決め手と比べた相手を記録から拾い、置いて確かめるのは自社で、軸の選び方の相談や、決めた位置の打ち出しは外に頼めます。
ポジショニングマップのテンプレート
自社でポジショニングマップを作るときに使えるように、この記事の手順に沿ったテンプレート(Excel)を用意しました。ファイル1つに、次の6つのシートが入っています。
- 使い方:書く順番と、それぞれのシートで何を書くか
- 1_軸を選ぶ:決め手と件数を書き、ほかの決め手と一緒に動くかを書いて、軸にする2つを選ぶ
- 2_相手を置く:比べられた相手と、どの案件で比べられたか、その相手に決まった理由、2つの軸での位置と、その根拠(記録・聞いた・調べた・推測)を書く
- 3_マップ:「2_相手を置く」に書いた位置から、マップが描かれる
- 4_空いている場所を確かめる:空いている場所の条件と、その条件を求めたお客さんが記録にいたか、決めることを書く
- 5_記入例:架空の部品加工会社で、6件の決め手からマップを作り、空いている場所を確かめた例
「軸を選ぶ」「相手を置く」「空いている場所を確かめる」の順にシートを埋めると、マップができ、空いている場所を狙うかどうかまで決められます。 決め手は、KSFの記事のテンプレートで数えたものを、そのまま写せます。
ポジショニングマップのテンプレート(Excel)をダウンロードする
※登録や個人情報の入力は要りません。クリックすると、Excelのファイル(ポジショニングマップテンプレート.xlsx)がダウンロードされます。
ARROWSのブランディング
ARROWSのブランディングでは、お客さんに選ばれる理由と、お客さんへの約束を決め、繰り返し使う言葉と見た目の決まりにします。そのうえで、会社案内やパンフレット、名刺のような印刷物と、商品や現場の写真まで、同じ決まりでつくります(Webサイトの制作は別料金です)。第7章で、決めた位置を伝え続けることはブランディングの仕事だとしましたが、そのうち伝える中身と、それに沿った制作物の部分を受け持てます。
マップを使うSTPの工程は、マーケティングコンサルティングでも、施策を選ぶ前に整理します。決めた位置と違う点を広告で売り込んだりしないよう、立ち位置を決めてから施策を選びます。
まとめ
ポジショニングマップの軸の材料は、お客さんに聞きに行く前に、手元の受注と失注の記録の中にあります。置く相手は、お客さんが実際に比べた相手にします。自社の位置は、受注の決め手で置き、失注の理由で確かめます。空いている場所は、その条件を求めるお客さんがいるかを記録で確かめてから狙います。
まずは、最近の受注と失注の決め手を数え、何度も出てきて互いに関係の薄い2つを縦と横に置いてみてください。次に、見積もりで比べられた相手を2つか3つ置き、失注の理由で自社の位置を確かめます。




