3C分析とは何か
3C分析は、Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3つの視点から事業環境を整理するフレームワークです。経営コンサルタントの大前研一氏が提唱しました。
それぞれの欄で見るものは、おおまかに次のように整理できます。
| 視点 | 主に確認すること |
|---|---|
| Customer(市場・顧客) | 市場の規模と変化。顧客が困る場面、現在の解決方法、選ぶときの基準 |
| Competitor(競合) | 同業他社に加え、同じ課題を別の方法で解決している選択肢 |
| Company(自社) | 提供できる価値、経営資源、継続して提供できるかどうか |
3つの視点を並べるだけなら、表はすぐに埋まります。3C分析の難しさは、埋めた後に始まります。
3つのCは、並列ではない
3つの欄を横に並べて書くと、対等な3項目に見えます。実際には性質が違います。CustomerとCompetitorは自社では動かせない外部環境で、Companyだけが自社の内部にあるものです。
順序としては、外部環境を先に見て、その条件の中でCompanyを評価します。自社から始めると、売りたいものを前提に市場を解釈してしまい、結論が最初から決まっている分析になりやすいためです。
重要なのは、3つの欄を別々に埋めることではなく、3つが重なる領域に仮説をひとつ立てることです。顧客にとって重要な課題であり、競合や代替手段では十分に解けておらず、自社の強みで応えられる。これらの条件が同時に成り立つ一点を探し、一文にまとめます。この記事では、この一文を戦略仮説と呼びます。ただし、その仮説が筋の良いものかを判定する物差しは、この時点ではまだ手元にありません。その物差しは第4章と第5章で説明します。まずは、3C分析の後に続く工程を見ておきます。
3C分析の後ろには、VRIOとSWOTが続く
3C分析だけで、具体的な打ち手まで決まるわけではありません。実務では、その後の工程と組み合わせて使います。ここを知らないまま3C分析だけで終わると、材料は揃っているのに打ち手が出てこない状態になります。
私は、環境の把握からマーケティング設計までを、会計・財務の把握 → 3C分析 → VRIO → SWOT → STP・4P → 実行、という順序で考えています。出発点に会計を置くのは、制作や広告にかける金額を、手元資金ではなく利益構造に基づいて決めるためです。ここが曖昧なまま進めると、後の設計が予算の都合に引きずられます。
このうち、3C分析が担うのは2番目の工程です。この記事でも、この工程を中心に扱います。VRIOとSWOTは3C分析で書いた一文を受け取って進み、最後のSTP・4Pで、誰に、何を、いくらで、どう届けるかを決めます。
3C分析が担うのは、材料を同じ土俵に並べ、3つが重なる一点を戦略仮説の一文にするところまでです。次に、Companyの欄に挙げた資源をVRIOでふるいにかけます。価値があるか、希少か、真似されにくいか、その資源を活かせる体制が組織にあるか。この4つの観点から評価し、条件を満たしたものだけを本物の強みとして扱います。
VRIOを提唱した経営学者のジェイ・バーニーも、この4つの問いを、SWOT分析の内部要因(強みと弱み)の欄を埋めるための枠組みとして示しています。3C分析のあとにVRIOを置き、その次にSWOTを置くのは、このためです。
※出典:Jay B. Barney「Looking Inside for Competitive Advantage」(Academy of Management Executive、1995年)
このふるいを飛ばすと、何が起きるか。Companyの欄は、書こうと思えばいくらでも書けてしまいます。技術力、対応の早さ、地域密着。挙げること自体は簡単です。それをそのままSWOTの強みの欄に流し込むと、「自社が強みだと思っているものの一覧」を前提に戦略を組むことになります。SWOTの強みの欄が埋まっても打ち手が出てこないときは、まずここを疑います。
VRIOを通した後のSWOTは、意味が変わります。残った本物の強みと、3C分析のCustomer・Competitorで見た市場の機会・脅威を掛け合わせる工程になります。そこで戦略の方向が決まり、STPと4Pに引き渡せます。
SWOTの強み・弱み・機会・脅威の欄を何から書き、掛け合わせた結果をどうSTPと4Pに引き渡すかは、SWOT分析の記事で解説しています。
関連記事SWOT分析とは?基本の書き方と、一覧で終わらせず次の打ち手につなげる方法【テンプレート付き】
PEST分析(政治・経済・社会・技術の変化を見る枠組み)やファイブフォース分析(業界の競争の強さを見る枠組み)は、CustomerやCompetitorを調べる道具として、3つのCの中で使えます。VRIOだけは、Companyを調べる道具ではなく、Companyに書いたものをふるう工程として、3C分析の後ろに置きます。
3つ埋めても戦略にならないのは、検証条件がないから
3C分析が形だけで終わるとき、まず見直すのは進め方です。
- 分析の目的が曖昧なまま始めている
- 情報を集めすぎて、判断に使わない材料まで抱えている
- 推測を事実として扱っている
- 3つのCを別々に書いて終わっている
ただ、これらはすべて進め方の問題です。進め方を直せば表の精度は上がりますが、それでも「この表は良い表なのか」という問いには答えられません。
私が本当の原因だと考えているのは、完成の条件が定義されていないことです。売上を伸ばす、競争優位を築く、市場を理解する。目的としてはどれも正しいのですが、目の前の分析結果がその目的に届いているかを、その場で判定できません。判定できない基準は、実務では基準として機能しません。
必要なのは、埋め終わった表を見て「まだ足りない」「これで足りている」と言い切れる、ひとつの問いです。
完成条件は「値下げしなくても選ばれるか」
私はマーケティングを、需要曲線を立てる活動だと捉えています。経済学の言葉で言い換えると、価格弾力性を下げる活動です。
価格弾力性は、値段が変わったときに、売れる量がどれだけの割合で変わるかを示します。価格弾力性が高いと、少し高くなるだけで顧客が離れます。他と比べられていて、選ぶ理由が価格しかないときにこうなります。弾力性が低いと、多少高くても選ばれます。比較の対象になっていない、あるいは価格以外の理由で選ばれているときにこうなります。
縦に価格、横に売れる量をとった需要曲線で、同じ価格の点どうしを比べると、弾力性が低いほど曲線の傾きは急になります。需要曲線を立てるとは、この傾きを急にしていくこと、つまり多少高くしても売れる量が減りにくい状態をつくることです。
この物差しを3C分析に当てると、完成条件をひとつの問いに絞れます。
3つのCを掛け合わせた結果、値下げしなくても選ばれる理由をひとつ取り出せたか。
戦略仮説を書き終えたら、この問いを当ててみます。「価格が競合より安い」「対応が早い」「地域に密着している」で止まっているなら、まだ足りません。安さは値下げそのものですし、対応の早さや地域密着といった言葉は、競合も同じように使っています。同じ言葉を全員が使っている時点で、それは選ぶ理由になりません。
一方で「専任のシステム担当者がいない会社にとって、導入と定着の負担が最も小さい選択肢である」まで絞れていれば、価格以外の理由が立っています。顧客がその価値を認めていれば、競合より多少高くても選ばれる余地があります。
この問いで確かめるときは、書いた本人の感覚に頼らず、Customerの欄に戻ります。第1章の表に「選ぶときの基準」として挙げたもののうち、価格より優先される基準に、その一文が応えているかを確認します。応えていれば、それがこの一文の根拠になります。
3C分析の成果物は、埋まった表ではありません。値下げしなくても選ばれる理由を、根拠付きで一文にしたものです。
Companyに書いた強みが本物かを判定する
完成条件が決まると、次に問題になるのはCompanyの欄です。ここに書かれている「強み」が本物かどうかで、戦略仮説の質がほとんど決まります。
第3章で、Companyに挙げた資源はVRIOでふるいにかけると書きました。ここでは、そのふるいを使って、強みを実際に見分けていきます。VRIOの4つの視点のうち、中小企業でいちばん効くのは模倣困難性(Imitability)です。
第5章で見たとおり、対応の早さも地域密着も、競合が同じ言葉を使っています。では、全員が使っている言葉の中から、本物だけをどう取り出すのか。経営学者の伊丹敬之は、経営資源をヒト・モノ・カネ・情報の4つに分けて論じました。そのうえで伊丹は、情報だけはカネを出しても買えず、自分で作るしかないとしています。一方、ヒト・モノ・カネは、カネを投じれば比較的揃えやすい資源です。設備は買える。人の頭数は採用で増やせる。資金は調達できる。だからこそ、それ自体は差別化の源泉になりにくく、競合が同じ投資をすればいずれ追いつかれます。
買えないのは、4つ目の情報です。伊丹はこれを「見えざる資産」と呼びました。技術の蓄積、顧客からの信頼、現場のノウハウ、企業文化、ブランド。財務諸表にはほとんど表れませんが、実際の競争力を支えているのはこちらです。
見えざる資産の性質は、VRIO分析の模倣困難性(Imitability)と重なります。VRIOを示したバーニーも、真似されにくい資源を説明する論文の注で、伊丹の見えざる資産の本を挙げています。
Companyの欄を書き終えたら、項目ごとに確認します。それはカネで買えるものか。買えるなら、競合が同じ投資をした時点で差はなくなります。買えないものであれば、蓄積にかかった時間そのものが、競合の模倣を妨げます。
たとえば「対応が早い」なら、人を増やして早くしているのか、過去の案件の蓄積があって判断が早いのかで分かれます。前者は競合も人員を増やせば追いつけますが、後者に追いつくには、同じだけの経験を積む必要があります。ただし、買えないものでも、顧客がそれを理由に選んでいなければ、まだ値下げしなくても選ばれる理由にはなりません。そこは第5章の問いに戻って確かめます。
ここで注意したいのは、ヒト・モノ・カネが無価値だという話ではないことです。最新の設備も、熟練した職人の判断と結びついて初めて「あの会社にしか出せない精度」になります。買える資源は、見えざる資産と組み合わさったときに意味を持ちます。
製造業であれば、こうした強みと発注する側の困りごとが重なるところで、何を引き受け、何を絞るかを決めることになります。その決め方は、製造業のブランディングを扱った記事で整理しています。
関連記事製造業のブランディングは、何を売るかを決める経営戦略
顧客と競合のデータを、どこから取るか
ここまでの話は、CustomerとCompetitorを事実に基づいて整理できることが前提です。
CustomerとCompetitorを事実で埋める方法には、顧客アンケート、顧客インタビュー、業界レポート、決算資料があります。調査に人員と予算を割ける会社なら、こうした方法で直接確かめるのが近道です。
そうでない場合にも、使える一次情報があります。検索データです。
Customerを調べる材料として。 何がどれだけ検索されているかは、顧客が実際にどのキーワードで探しているかの記録です。第1章の表の「困る場面」や「選ぶときの基準」を、社内の想像ではなく、この記録で確かめられます。ただ、自社が使う言葉と、顧客が検索に使うキーワードは、ずれることがあります。そのずれが実際にどう起きるかは、コンテンツSEOの記事で、作る側と発注する側のキーワードを並べて扱っています。
Competitorを調べる材料として。 検索結果には、顧客が比較している相手の候補が並びます。しかも同業他社だけでなく、比較サイト、大手メディア、別の解決手段まで一緒に並びます。競合を業界内で数えると、この代替手段が抜け落ちます。Competitorで確認したい「同じ課題を別の方法で解決する選択肢」は、机上で洗い出すより、顧客が実際に見ている検索結果を確認したほうが早く見つかることがあります。
このやり方の利点は、費用がほとんどかからないことと、思い込みが混ざりにくいことです。社内で議論して決めた顧客像は、確かめるまではすべて仮説ですが、検索データは実際の行動の記録です。
もちろん、検索データだけで顧客を理解できるわけではありません。検索していない層の課題は映りませんし、なぜそのキーワードで探したのかまでは分かりません。検索回数が少ないキーワードは、ツールでは0や丸めた数で表示されることもあり、ニッチな商材ほどこの影響を受けます。それでも、手がかりが何もない状態から始めるより、次に何を確かめるべきかが明確になります。
3C分析のテンプレート
3C分析を自社で書くときに使えるように、この記事の手順に沿ったテンプレート(Excel)を用意しました。ファイル1つに、次の5つのシートが入っています。
- 使い方:書く順番と、それぞれのシートで何を書くか
- 1_3C:Customer・Competitor・Companyの欄と、戦略仮説の一文。第1章の表の項目を欄にし、外部環境から先に書く順に並べている
- 2_確かめる:一文が値下げしなくても選ばれる理由になっているか(第5章)と、Companyに書いた強みがカネで買えないもので、顧客がそれを理由に選んでいるか(第6章)を確かめる表
- 3_記入例_3C・4_記入例_確かめる:架空の部品加工会社で、3つの欄から確かめまで書いた例
3つの欄から戦略仮説の一文まで書いたら、同じファイルの中で、埋めた後に確かめることまで進められます。 記入例は、SWOT分析の記事のテンプレートの記入例と同じ会社です。2_確かめるで残った強みは、VRIOでふるいにかけたうえで、SWOT分析の強みの欄に引き継げます。
※登録や個人情報の入力は要りません。クリックすると、Excelのファイル(3C分析テンプレート.xlsx)がダウンロードされます。
ARROWSのブランディング
第5章で、3C分析の完成条件を「値下げしなくても選ばれるか」に置きました。ARROWSのブランディングも、価格を下げなくても選ばれるようになったかどうかを、成果を確かめる大切な指標にしています。何を提供し、どんな強みがある会社なのかが伝わらないと、顧客は価格を中心に比べがちになります。そこで、選ばれる理由を決め、顧客に約束する価値として、言葉と見た目にします。
集客の戦略を立てて実行するところは、マーケティングコンサルティングで頼めます。最初につくる集客の設計図の「強みの整理」には、顧客に選ばれる理由を1〜2行で書きます。第5章で一文にしたものと同じ形です。「市場と競合」「狙うお客様」には、どこで勝負し、誰に届けるかを書きます。
まとめ
3C分析は、3つの欄を埋める作業ではありません。3つを掛け合わせて、値下げしなくても選ばれる理由をひとつ取り出すための道具です。
進めるときは、次の順で確認します。
- 外部環境(Customer・Competitor)を先に見て、その条件の中でCompanyを評価する
- 3つが重なる一点を、戦略仮説として一文にする
- その一文に「値下げしなくても選ばれる理由をひとつ取り出せたか」を当て、Customerの欄の「選ぶときの基準」で確かめる
- 選ばれる理由が自社側の資源にあるなら、それがカネで買えるものかを確かめる
第8章のテンプレートを使うと、この順番で書けます。
埋まった表は途中経過です。最後に確かめるのは、そこから取り出した一文に、値下げしなくても選ばれる理由が入っているかどうかです。




