CRMとは
CRMは、Customer Relationship Managementの略で、顧客関係管理と訳されます。読み方は「シーアールエム」です。
CRMという言葉は、2つの意味で使われます。1つは、お客さんとの関係を一度の取引で終わらせず、次の相談や次の注文、紹介につなげていくという考え方です。もう1つは、その考え方を実行するために、お客さんの情報ややり取りの記録を1か所にまとめて、社内の関係者が確認できるようにする道具です。道具のほうは、CRMツールやCRMシステム、顧客管理システムとも呼ばれます。
考え方としてのCRMは、新しいものではありません。お得意さんの名前や、以前に頼まれたことを帳面に書き留める習慣は、昔から商売の中にありました。名刺の束や、担当者ごとのエクセルも、お客さんとの関係を続けるための記録という点では同じです。違うのは、記録が1か所にあって、担当者でなくても見られるかどうかです。CRMは、お客さんとの関係を続けるための考え方と、そのための記録を1か所にまとめる道具の、両方を指す言葉です。
会社どうしの取引(BtoB)で、見込み客を集めてから商談に進めるまでのうち、自社がどこから手を付けるかの決め方と、名刺や問い合わせが1か所に記録されていないときは記録から始める理由は、BtoBマーケティングの記事で解説しています。
CRMで残す情報と、主な機能
CRMのツールに残す情報は、大きく分けると次の4つです。
| 残す情報 | 例 | それで分かること |
|---|---|---|
| お客さんの基本情報 | 会社名、担当者の名前、連絡先 | 誰に連絡すればよいか |
| やり取りの記録 | 問い合わせ、電話、メール、訪問で話したこと | 前の担当者が何を話したか |
| 見積もりと結果 | 見積もりの内容と金額、受注・失注 | どの見積もりが受注になり、どれが断られたか |
| 問い合わせの内容 | 何を頼みたかったか、どこで知ったか | どの仕事への関心が高いか、どの集客方法から問い合わせが来ているか |
ツールは、これらの情報をお客さんごとにまとめて、一覧にしたり、検索したりできるようにします。主な機能には、お客さんの情報の一覧表示・検索、やり取りの履歴の表示、件数や金額の集計・グラフ化、メールの一斉配信、次の連絡日の通知などがあります。
どの機能も、必要な記録が入力されて初めて役に立ちます。どの情報をどこまで詳しく残すかは、使う側で決める必要があります。CRMのツールは、お客さんの情報とやり取りの記録を1か所に集め、探す、数える、知らせる、といった作業を手伝う道具です。
SFA・MAとの違い
CRMと一緒に出てくる言葉に、SFAとMAがあります。SFAはSales Force Automationの略で、営業の支援を、MAはMarketing Automationの略で、マーケティングの自動化を指します。3つの違いは、主に何を扱うかにあります。
| CRM | SFA | MA | |
|---|---|---|---|
| 主に扱うもの | お客さんとの関係全体の記録 | 商談の進み具合(案件、次の行動、見込みの確度=受注できそうな度合い) | まだ問い合わせをしていない見込み客への配信と、その反応 |
| 主に使う人 | 営業、マーケティング、問い合わせの窓口 | 営業 | マーケティング |
| 役に立つ場面 | 担当が替わるとき、次の注文や紹介につなげたいとき | 商談を進めるとき、見込みの売上を出すとき | まだ問い合わせていない見込み客に、情報を届け続けるとき |
3つは重なっています。SFAが扱う商談の記録は、CRMが扱うやり取りの記録の一部です。MAで集めた見込み客が問い合わせてくれば、その先はCRMの記録になります。実際の製品でも、CRMを土台にして、SFAやMAの機能を足していく形が多く、1つの製品の中で3つがまとまっていることもあります。SFAは商談、MAはまだ問い合わせをしていない見込み客を扱い、CRMは問い合わせのあとから次の注文までを含めた、お客さんとの関係全体を記録します。
CRMを入れるメリットと、入れても変わらないこと
CRMのツールを入れると、次のようなことができるようになります。
- 担当が替わっても、前の担当者がお客さんと何を話したかが分かる
- 同じお客さんに2人が連絡したり、誰も連絡しないまま日がたったりするのを防げる
- 前に頼んでくれたお客さんに、次の相談の時期を見て連絡できる
- 問い合わせの件数や、受注・失注の数を、集計し直さずに見られる
一方で、ツールには費用がかかり、記録を入力する手間も増えます。入れたものの、誰も入力しなくなって使われなくなる、という話もよく聞きます。
もう1つ、知っておきたいのは、ツールを入れても変わらないことです。何を残すかです。いま、お客さんの記録が営業の手帳や個人のメールに散らばっていて、人によって書いていることが違うなら、ツールに移しても、その違いはそのまま移ります。ある人は「どこで知ったか」を書き、別の人は書かない。これでは、集計機能があっても、どの集客方法から問い合わせが来ているのかを正しく比較できません。CRMのツールは記録を1か所に集めて使いやすくしますが、何を残すかは決めてくれません。
ツールを選ぶ前に、記録する項目を決める
そこで、ツールを選ぶ前に、記録する項目を決めます。
まず、いまお客さんの記録がどこにあるかを書き出してみます。問い合わせフォームから届いたメール、電話を受けたときのメモ、営業の手帳、見積書の控え、売上の表、営業の日報、もらった名刺、担当者個人のメール。多くの会社では、お客さんの記録はこうした場所に分かれて残っています。
第2章の4つの情報は、ツールが用意している入れ物の分け方です。その中にどの欄を、どの細かさで作るかは、入れ物の名前からは決まりません。欄は、その欄を見て次に何を決めるのかから考えると、選びやすくなります。たとえば、次の5つです。
- どこで知ったか:どの集客を続け、どれをやめるかを決める
- 何を頼みたかったか:どの仕事の問い合わせが多く、どれを伸ばすかを決める
- 結果と比べた相手(分かれば会社名、分からなければ何社と比べたか):どんな相手と比べられたときに受注でき、どんなときに断られているかをつかむ
- 決め手と失注の理由(お客さんの言葉で):選ばれている条件と、足りない条件を見て、何を打ち出し、何に手を打つかを決める
- 次に誰がいつ連絡するか:連絡の漏れと重なりを防ぐ
入れ物の名前だけで欄を作ると、欄は埋まっていくのに、あとで見返したときに比べられない、ということが起きます。「やり取りの記録」の欄に電話の中身が長く書いてあっても、どこで知ったかが書いていなければ、集客を比べることはできません。反対に、次に何を決めるかから項目を選べば、記録が少ないうちから数えて使えます。記録する項目は、入れ物の名前ではなく、その項目を見て次に何を決めるのかから選びます。
決めた項目で、最近の受注と失注を何件か書き出してみると、項目が足りるかを確かめられます。書き出す件数の選び方と、記録だけでは分からないことをお客さんに聞く聞き方は、カスタマージャーニーの記事で解説しています。
関連記事カスタマージャーニーとは?意味と、手元の記録で埋めるマップの作り方
最初は、エクセルやスプレッドシートの1枚の表で始める
項目が決まったら、最初はエクセルやスプレッドシートの1枚の表で始めます。1行に問い合わせ1件を書き、列に第5章の項目を並べます。お客さんごとではなく問い合わせごとに1行にするのは、同じお客さんでも、頼みたいことや決め手は問い合わせのたびに違うからです。前から取引のあるお客さんからの相談も、1件として1行に書き、どこで知ったかの欄には「前からの取引」と書きます。始めるときは、いま進んでいる問い合わせと見積もりから入れ、過去の分は思い出せる範囲で足していきます。全部を移してから始める必要はありません。
表への入力は、問い合わせを受けた人が担当します。入力するタイミングは、問い合わせが来たとき、見積もりを出したとき、結果が出たとき、お客さんに連絡したときの4つです。1回で全部の列を埋める必要はありません。見積もりやその後の連絡を別の人がしたときは、その人が書き足します。お客さんと話したことは「経過」の列に、前の内容を消さずに、日付をつけて書き足していきます。担当が替わっても、この列を読めば前に何を話したかが分かります。
たとえば、KSFの記事と同じ、急ぎの小口の試作を請け負う部品加工会社(架空)が、最近の問い合わせ7件を表にすると、次のようになります。
| 会社名 | どこで知ったか | 何を頼みたかったか | 結果と比べた相手 | 決め手・失注の理由 | 次の連絡 |
|---|---|---|---|---|---|
| A社 | 検索 | 試作の部品5個 | 受注(2社と比べた) | 見積もりがその日のうちに届いた | 受けた人が11月上旬に電話(次の試作の予定を聞く) |
| B社 | 取引先からの紹介 | 試作の部品1個 | 受注(1社と比べた) | 見積もりがその日のうちに届いた、1個から受けてくれた | — |
| C社 | 展示会 | 治具の製作 | 受注(比べていない) | 工場が近く、すぐ来てくれた | — |
| D社 | 検索 | 試作の部品10個 | 失注(3社と比べた) | ほかの会社のほうが価格が安かった | — |
| E社 | 取引先からの紹介 | 試作の部品とめっき | 失注(2社と比べた) | ほかの会社は表面処理までまとめて頼めた | — |
| F社 | 検索 | 試作の部品と表面処理 | 失注(2社と比べた) | ほかの会社は表面処理までまとめて頼めた | — |
| G社 | 検索 | 試作の部品3個 | 保留(見積もりを出したところ) | — | 受けた人が10月15日に電話 |
決め手と失注の理由は、お客さんが言った言葉のまま書きます。E社とF社を「条件が合わなかった」とまとめていたら、2件とも「表面処理までまとめて頼めた」が理由だったことは、あとで並べても見えません。
月に1回、どこで知ったかと、決め手・失注の理由の列を数えます。決め手・失注の理由は、受注と失注に分けて数えます。この表なら、受注の決め手では「見積もりがその日のうちに届いた」が2件、失注の理由では「表面処理までまとめて頼めた」が2件出ていることが分かります。どこで知ったかは検索が4件といちばん多いものの、そのうち受注は1件で、失注の2件の理由は価格と表面処理でした。どの集客を続けるかは、件数だけでなく、結果と並べて決めます。G社の行は、10月15日に電話をしたら、話したことを経過の列に書き足し、次の連絡を書き直します。最初は、1行に問い合わせ1件を書く1枚の表で始め、月に1回、どこで知ったかと、決め手・失注の理由を数えます。
並べた決め手から、自社の強みがお客さんに選ばれる理由になっているかを確かめる方法は、KSFの記事で解説しています。
関連記事KSFとは?意味と、受注・失注の決め手から見つける方法【テンプレート付き】
表で困りごとが出たら、ツールに移す
表で記録を続けていると、いずれ困りごとが出てきます。ツールに移す目安は、次の3つです。
- 「次の連絡」の列に日付を書いていても、件数が増えて、その日が来たことに誰も気づかない
- 件数が増えて、前のやり取りを探すのに時間がかかる。エクセルのファイルを回して使っていて、何人かが同時に書き込めない
- 経過の列が長くなり、担当が替わったときに、前のやり取りを追いきれない
移る前に、表のときに誰が書いていたかを、ツールでも決めておきます。項目は、表で使ってきた列をそのまま持っていきます。表で何か月か続けた項目は、自社にとって要る項目だと分かっているからです。
ツールを選ぶときは、機能の多さより、決めた項目が入れやすいかを見ます。表の列をそのまま項目として作れるか、いまの表を取り込めるか、入力しやすい画面かを確認します。費用は使う人の数で変わる製品が多く、無料で始められる製品もあります。まずは決めた項目を入れてみて、表と同じように使えるかを確かめます。
たとえばHubSpotに移すなら、表の列がどの項目に入り、取り込む前にどの列を表に足しておくかは、HubSpotの記事で解説しています。
関連記事HubSpot(ハブスポット)とは?無料でできることと、エクセルの顧客管理表から移す方法
ツールに移しても、表がいらなくなるわけではありません。私が関わった仕事では、ツールに入れた案件の記録を表計算に書き出し、担当者ごとに受注・見込み・納品の金額を数えていました。見込みの金額は、受注できそうな度合いに応じて、見積もりの金額の一部だけを足していました。項目がそろっていれば、ツールで見ても、表に書き出しても、同じように数えられます。いまはARROWSでも、CRMのツール(HubSpot)で、見込み・受注・納品の流れと売上を追っています。ツールに移すのは、表で困りごとが出てからにし、選ぶときは、決めた項目が入れやすいかで見ます。
集めた問い合わせ(リード)に、誰がいつまでに連絡するかの決め方は、BtoBのリード獲得の記事で解説しています。
関連記事BtoBのリード獲得とは?施策の選び方と、成果の比べ方
CRMのテンプレート
この記事の手順に沿って記録を始められるように、テンプレート(Excel)を用意しました。ファイル1つに、次の4つのシートが入っています。
- 使い方:書く順番と、それぞれのシートで何を書くか
- 1_記録:1行に問い合わせ1件。第5章の5つの項目(結果と比べた相手は2つの列)に、問い合わせの日・会社名・お客さんの担当者・最後に連絡した日・経過・受けた人を加えた列がある
- 2_数える:どこで知ったかと結果は式で数え、決め手(受注)と失注の理由は、同じことを言っているものをまとめて件数を書く
- 3_記入例:架空の部品加工会社の記録と、数えた例
「記録」に問い合わせのたびに1行ずつ書き、月に1回「数える」で数えれば、ツールを選ぶ前から、記録を判断に使えます。
※登録や個人情報の入力は要りません。クリックすると、Excelのファイル(CRMテンプレート.xlsx)がダウンロードされます。
ARROWSのHubSpot導入支援
第7章の困りごとが出て、移す先にHubSpotを選ぶなら、ARROWSのHubSpot導入支援でお手伝いできます。CRMのツールは、HubSpotでの支援に絞っています。
導入でも、第5章のように、記録する項目を先に決めます。お客さん・会社・商談について記録する項目と入力の決まり、問い合わせから受注までの段階、誰が書くかを決めてから、HubSpotに設定します。
いまの表は、同じ人が2行に分かれていないか、会社名の書き方がそろっているかを見て整えてから、HubSpotに移します。第5章で挙げた記録の置き場所のうち、もらった名刺は、お預かりしてスキャンし、登録します。
まとめ
CRMは、お客さんとの関係を続けていくための考え方と、そのための記録を1か所にまとめる道具のことです。ツールは記録を探しやすく、数えやすくしますが、何を残すかは決めてくれません。
まずは、いまお客さんの記録がどこに散らばっているかを書き出してみてください。そのうえで、その記録を見て次に何を決めたいかから、表の列を選びます。たとえば、どこで知ったか、何を頼みたかったか、結果と比べた相手、決め手と失注の理由、次に誰がいつ連絡するか、の5つです。次の問い合わせから1行ずつ書き、月に1回数えます。表で困りごとが出てきたら、そのときがツールを選ぶ時期です。




