カスタマージャーニーとは
カスタマージャーニーは、お客さんが自社を知ってから、比べて頼み、使ってみて、また頼んだり人にすすめたりするまでの道のりのことです。お客さんの動きを旅にたとえて、こう呼ばれます。
この道のりは、いくつかの段に分けて考えます。たとえば、小ロットの試作を請け負う部品加工の会社(架空)を考えてみます。発注する会社の設計の担当者は、次のような流れで頼む先を選びます。
図の右の列には、それぞれの段でお客さんが自社の情報に触れたり、担当者とやりとりしたりする接点を並べています。これをタッチポイント(接点)と呼びます。ホームページや検索結果だけでなく、展示会のブース、営業との打ち合わせ、見積書、納品のときのやりとりも接点です。気づく段では、まだ自社との接点がないことが多いので、記録で埋めるときは「どこで知ったか」から書き始めます。
段の分け方と数に、決まった正解はありません。個人のお客さんが店で買う商品なら「知る→比べる→買う→使う→また買う」くらいで足ります。会社どうしの取引(BtoB)では、担当者が発注先の候補を選んだあとに、上司や購買の担当者が確認・承認する段が入ります。自社のお客さんが実際に通る順番で分けてください。
段ごとに、お客さんがすること、見る場所、考えていること、止まったことを書き出して表にしたものを、カスタマージャーニーマップと呼びます。図1は段を縦に並べましたが、マップの表では、横に段を並べ、縦に書く項目を並べるのが一般的です。作り方は第4章で説明します。
カスタマージャーニーマップを作るメリット・デメリット
マップを作るメリットは、主に次の3つです。
- 自社の接点を、お客さんの側から見直せる。社内では、サービスの種類や担当部署を基準に考えがちですが、マップではお客さんが行動する順に整理し直します
- 社内で同じ表を見て話せる。営業、ホームページの担当、現場の担当が、お客さんがどこで迷っているかを同じ言葉で話せるようになります
- 段ごとに見る数字と、手が回っていない段が分かる。接点が1つもない段や、数字を見ていない段といった抜けが見えます
一方で、デメリットもあります。作るのに時間がかかります。細かく作るほど、直すのが大変になって、作った時点のまま古くなります。表を作ること自体が目的になって、作ったあとに使われないこともよく起きます。
マップは、作ったあとに改善点を見つけるために使ってこそ、かけた時間や手間が生きます。 少ない人手で作るなら、細かさより、次の章で説明する「意味がない」と言われる理由を避けることを優先してください。
「古い」「意味がない」と言われる理由
カスタマージャーニーが古い、意味がないと言われる理由は、大きく2つあります。
1つは、お客さんが段の順番どおりに進まないことです。ホームページを見て比べたあとに、知り合いに聞いてまた別の会社を探したり、比べる段を何度も行き来したりします。反対に、困りごとが起きたその日に、検索して最初に見つけた会社へ電話することもあります。順番どおりの地図を作っても、実際の動きと合わない、という指摘です。
もう1つは、マップを想像で埋めて、作ったところで終わることです。会議室で「お客さんはきっとこう考えるはずだ」と書き出したマップは、書いた人の頭の中を写したものになります。どこを直せばよいかの手がかりにならないので、使われないまま古くなります。
1つ目の理由は、見方を変えると役に立ちます。比べる段に何度も戻っているなら、お客さんがそこで決めきれない理由があるということです。その行き来に目を向けると、どこで迷っているのかを探す手がかりになります。
2つ目の理由は、作り方で避けられます。想像ではなく手元の記録で埋めて、止まっている段を直すために使えば、「意味がない」マップにはなりません。 記録で埋める方法は第5章で、止まっている段の見つけ方は第6章で説明します。
カスタマージャーニーマップの作り方(基本)
マップは、次の順番で作ります。
- 何のために作るかを決める。「問い合わせを増やす」「見積もりを頼んでくれたお客さんからの受注を増やす」「一度頼んだお客さんにまた頼んでもらう」のどれか1つに絞ります
- どのお客さんの道のりかを決める。まずは、いちばん受注の多いお客さんの種類を1つ選びます
- 段を決める。第1章のように、お客さんが実際に通る順番で4〜7つに分けます
- 段ごとに、次の表の4つの行を書く
- 止まったことの行から、直すことを書く
| 行 | 書くこと | 例(比べる段) |
|---|---|---|
| お客さんがすること | その段でお客さんが実際にしたこと | 2〜3社のホームページを見比べ、見積もりを頼む |
| 見る場所・接点 | お客さんが見たもの、話した相手 | 各社のホームページの加工事例、見積書、営業の返事 |
| 考えていること・迷い | お客さんが言ったこと、聞いて分かったこと | 急ぎの試作に対応してくれるか、図面だけで見積もりが出るか |
| 止まったこと | 先へ進まなかった理由 | 見積もりが届くまで1週間かかり、先に返事をくれた会社に決めた |
表を埋める前に、お客さんの人物像(ペルソナ)を詳しく設定する作り方もあります。ペルソナとは、年齢や役職、悩みなどを具体的にまとめた架空のお客さん像です。ただ、少ない人手で、手元に調査の材料が無いまま人物像から作ると、その人物像も、それに沿って埋める表も、想像で埋まります。この記事では順番を逆にして、先に記録で表を埋め、人物像はあとから共通点として足します。
会社どうしの取引では、第1章のように、担当者のあとに上司や購買の担当者が確認・承認します。比べる段と、社内で決める段を分けて書くと、どちらで止まっているかが分かります。見込み客の連絡先を得てから、連絡を取り、商談を経て受注に至るまでの流れは、BtoBのリード獲得の記事で解説しています。展示会や広告など、施策ごとに件数を記録して比較する方法も紹介しています。
関連記事BtoBのリード獲得とは?施策の選び方と、成果の比べ方
想像で埋めない:手元の記録で埋める
表を埋める材料は、多くの会社の手元にすでにあります。
| 手元の記録 | どこにあるか | 記録で埋まる段 |
|---|---|---|
| 問い合わせの記録(どこで知ったか、何を頼みたかったか) | 問い合わせフォームのメール、電話のメモ、営業の手帳 | 探す・比べる |
| 受注と失注の記録(いつ問い合わせが来て、見積もりを出し、どうなったか) | 見積書の控え、売上の表、営業の日報 | 比べる・社内で決める・頼む・受け取る |
| 検索キーワード(自社のサイトが検索結果に出るキーワード) | Search Console(Googleが提供する無料ツール) | 探す |
| 担当者が覚えていること(お客さんが言っていたこと、迷っていたこと) | 営業や現場の担当者の記憶 | どの段も |
記録で埋めるときは、全部の記録を集めようとせず、次の手順で6件だけ書きます。
- 最近受注した3件と、受注できなかった(失注した)3件を選ぶ。失注は、見積もりまで出したのに断られた、または返事が来なかったものです
- 1件ずつ、段に沿って「何をして、どこを見て、どこで止まったか」を書く。受注したお客さんは、最初の段から最後まで書けるところを書きます。失注したお客さんは、どの段で止まったかを書きます
- 記録だけでは分からないことを、お客さんに聞く。受注したお客さんには「最初はどこで当社を知りましたか」「ほかにどの会社と比較しましたか」と聞きます。失注したお客さんには「どの会社と比較し、何を決め手に選びましたか」と聞きます。聞いても分からなかった欄は「不明」と書き、想像で埋めません
- 6件を並べて、共通しているところを見る。担当者の役職や困りごと、頼む先を選ぶ基準などの共通点を整理すると、お客さんの人物像(ペルソナ)をまとめられます
- マップの各段には、6件で起きたことを、同じことが起きた件数を添えて書く(例:見積もりが届くまで1週間・2件)。入り口のように件ごとに違うものは、並べて書きます
記録で埋めるときにいちばん効くのは、失注したお客さんの記録です。 受注したお客さんの記録からは、うまくいった道のりが分かります。失注したお客さんの記録からは、どの段で、何と比べて、別の会社に決めたかが分かります。直す場所の手がかりは、失注の側にあります。
記録を書き写すときは、お客さんが実際にしたこと、言ったことをそのまま書きます。私が関わった仕事で、問い合わせの一覧に「どの言葉で来たか」という欄がありました。そこに書かれていたのは、お客さんが実際に検索した言葉ではなく、広告を出すために会社が選んでおいた言葉でした。そのため、その一覧を見ても、お客さんがどんな言葉で探して来たのかは分かりませんでした。記録の欄に会社側の設定を書くと、表がお客さんの道のりではなく、会社の想定を写したものになります。
言葉も、お客さんの言葉で書きます。私が関わった別の仕事では、お客さんは、会社がサービスを分けている種類の名前ではなく、自分がしたいことを表す言葉で探していました。会社が伸ばしたかった切り口を表す言葉は、検索キーワードにはほとんど出てきませんでした。会社が伝えたい切り口と、お客さんが探す切り口は、一致するとは限りません。表の「お客さんがすること」と「考えていること」の行は、自社の分類ではなく、お客さんが使った言葉で書きます。
検索キーワードの記録は、Search Consoleで集まります。分かるのは、お客さん1人ずつの検索キーワードではなく、ページごと・サイト全体で、どんなキーワードで検索結果に出て、クリックされたかです。探す段の中で、ホームページが見つけてもらえているか、来た人が問い合わせまで進めているかの見分け方は、ホームページの問い合わせを増やす記事で解説しています。キーワードを、調べもの、困りごと、頼む先を探すものに仕分ける方法も、同じ記事で紹介しています。問い合わせのたびに「どこで知りましたか」と聞き、記録しておく方法も解説しています。
関連記事ホームページの問い合わせを増やすには?アクセスより先に、誰が来ているかを確かめる
どの段で止まっているかを見て、直す1か所を決める
6件の記録で、止まっていそうな段に見当がつきます。ただ、6件だけでは、たまたまかもしれません。そこで、数字でも、どのあたりで止まっているかを確かめます。
段ごとに、見る数字を1つずつ決めます。たとえば、次のような数字です。
- 探す段:ホームページに来た人の数(紹介が多い会社なら、紹介で来た相談の数)
- 比べる段:見積もりの依頼の数
- 社内で決める段・頼む段:受注した件数(いつ出した見積もりかは問わず、その3か月に受注した件数で数えます)
- また頼む段:一度頼んだお客さんからの、2回目の依頼の数
この数字を、前の3か月と、いまの3か月で並べます。ほかの数字は変わらないのに、1つの数字だけが減っていれば、お客さんは、その数字の段まで進めていません。問い合わせから発注まで数か月かかる会社や、件数が少ない会社は、半年で並べます。
図の例では、見積もりの依頼は前と同じだけ来ているのに、受注が減っています。数字から分かるのは、見積もりを頼んだあとのどこかで止まっている、というところまでです。比べる段で止まったのか、社内で決める段で止まったのかは、第5章の記録で見ます。失注した3件のうち2件が「見積もりが届くまで1週間かかった」と答えていれば、止まっているのは比べる段で、直すのは見積もりの返事の早さです。
直すところは、1か所に絞ります。 少ない人手で、すべての段を同時に直すことはできません。同時にいくつも直すと、数字が変わっても、どれが効いたのかが分からなくなります。数字が2つ以上減っていたら、第5章の記録で、止まった理由がいちばん多く挙がった段から直します。
ただし、数字や検索キーワードだけを見て、どの段のお客さんかを決めつけないでください。私が関わった仕事で、ほかの会社の名前で検索した人にも、自社の広告が表示されていました。最初は、自社には関係のない人だと考え、表示を止めようとしました。ところが、問い合わせの記録と1件ずつ突き合わせると、その人たちは、頼む先を比べている見込み客でした。ほかの会社の名前で検索するのは、比べる段にいるお客さんの動きです。数字やキーワードで見当をつけたら、記録で確かめてから直します。
作ったあとに見直す
マップは、一度作って終わりではありません。
直した効果は、直す前と同じ数字で確かめます。見積もりをその日のうちに返すようにしたなら、受注した件数が戻ったかを、次の3か月で見ます。戻らなければ、記録をもう一度見て、別の理由を探します。
このとき、やったこと(見積もりをその日のうちに返せた割合)と、それで起きたこと(受注した件数)を分けて見ると、効いたかを確かめやすくなります。この2つの分け方は、KPIの記事で解説しています。
関連記事KPIとは?意味と決め方、数字を見るだけで終わらせない置き方【テンプレート付き】
受注と失注の記録は、毎月たまっていきます。四半期に一度くらい、新しい受注3件と失注3件を選んで、同じ表に書き足します。お客さんの道のりは、競合が増えたり、探し方が変わったりすると変わります。前と違う段で止まり始めたら、それが次に直すところです。
マップは、営業担当者だけでなく、ホームページや広告の担当者にも共有し、一緒に確認してください。比べる段で止まっている理由が「見積もりの返事が遅い」なら営業の仕事、「加工事例が載っていない」ならホームページの仕事です。同じ表を見ていれば、直すのが誰の仕事かを、その場で決められます。
カスタマージャーニーマップのテンプレート
自社で作るときに使えるように、この記事の手順に沿ったカスタマージャーニーマップのテンプレート(Excel)を用意しました。ファイル1つに、次の4つのシートが入っています。
- 使い方:書く順番と、それぞれのシートで何を書くか
- 1_受注と失注を書く:受注3件・失注3件を選び、段ごとに何をして、どこを見て、どこで止まったかを書く
- 2_マップ:何のために作るかと、どのお客さんの道のりかを書き、段ごとに、お客さんがすること、見る場所・接点、考えていること・迷い、止まったこと、記録の出どころを書く。段ごとに見る数字を前の3か月といまの3か月で並べ、お客さんの人物像と、直すことを1つ書く
- 3_記入例:架空の部品加工の会社で、6件の記録からマップを埋め、直す1か所を決めた例
6件の記録を整理してからマップに移すので、実際のお客さんの行動をもとに作れます。 段ごとの数字と、直すところを決めたら、KPIの記事のテンプレートに写して、数字を追っていくこともできます。直すことは「打ち手」の欄に、この記事で段ごとに選んだ数字は、そのまま「KPI」の欄に書けます。
カスタマージャーニーマップのテンプレート(Excel)をダウンロードする
※登録や個人情報の入力は要りません。クリックすると、Excelのファイル(カスタマージャーニーマップテンプレート.xlsx)がダウンロードされます。
ARROWSのマーケティングコンサルティング
「集客の道筋」は、ARROWSのマーケティングコンサルティングで最初につくる半年の設計図の欄の1つです。「知る」「調べる」「比べる」「問い合わせる」「商談する」という、お客さんの行動に沿って、段ごとに行う施策を整理します。段の名前と数はこの記事の例と違いますが、お客さんの行動の順に、自社の打つ手を並べる考え方は同じです。
第7章のとおり、止まっている理由によって、直すのが誰の仕事かは変わります。理由が、検索で見つけてもらう対策や広告、問い合わせのあとのフォローにあるなら、この支援で受け持てる範囲です。どの分野を厚くするかは、その時期の課題に合わせて切り替えます。
まとめ
カスタマージャーニーは、お客さんが自社を知ってから頼み、また頼むまでの道のりです。マップは、想像で埋めずに手元の記録で埋めて、どこを直すかを決めるために使います。
まずは、最近受注した3件と、受注できなかった3件を選んでください。1件ずつ、段に沿って何をして、どこを見て、どこで止まったかを書き、記録だけでは分からないことをお客さんに聞きます。6件が並んだら、段ごとに数字を1つ決めて前の期間と比べ、止まっているところに見当をつけます。どの段かを記録で確かめてから、1か所を直します。




