ファイブフォース分析とは
ファイブフォース分析は、業界の競争の強さを5つの力で見るフレームワークです。アメリカの経営学者マイケル・E・ポーターが、1979年に「How Competitive Forces Shape Strategy」という論文をハーバード・ビジネス・レビューに発表し、翌1980年の著書『競争の戦略』(原題 Competitive Strategy)で体系的に示しました。2008年には、同じ雑誌に改訂版の論文「The Five Competitive Forces That Shape Strategy」を発表しています。
5つの力は、次のとおりです。
- 業界内の競争:いまの競合どうしの競争
- 新規参入の脅威:新しく業界に入ってくる会社
- 代替品の脅威:別の方法で、お客さんの同じ目的を満たす商品やサービス
- 買い手の交渉力:お客さんが値下げや支払いなどの条件を求める力
- 売り手の交渉力:仕入れ先や外注先が値上げや取引の条件を求める力
競争というと、同じ仕事を取り合う同業の会社どうしの争いを思い浮かべがちです。ポーターは2008年の論文で、経営者は競争を狭く捉えすぎることが多い(Often, however, managers define competition too narrowly)と書き、利益をめぐる競争には、いまの競合に加えて、お客さん、仕入れ先、新しく入ってくる会社、代わりになる商品という4つの力も含まれるとしました。
5つの力が強いと、業界のどの会社も利益を残しにくくなります。同じ論文には、次の一文があります。
If the forces are intense, as they are in such industries as airlines, textiles, and hotels, almost no company earns attractive returns on investment.
(5つの力が強ければ、航空、繊維、ホテルなどの業界のように、投資に見合う利益を上げられる会社はほとんどない。)
出典:Michael E. Porter「The Five Competitive Forces That Shape Strategy」(Harvard Business Review、2008年1月号)。訳は筆者
呼び方は、ファイブフォース分析のほか、5フォース分析、5F分析(Five Forces)、5つの競争要因などがあり、どれも同じものを指します。ファイブフォース分析は、いまの競合だけでなく、5つの力のうちどれが利益を削っているかで、業界の競争の強さを見るフレームワークです。
5つの力が指すもの
5つの力が何を指し、どんなときに強くなるかを並べると、次のようになります。
| 力 | 何を指すか | 強くなるのは、たとえば |
|---|---|---|
| 業界内の競争 | 同じお客さんに、同じ仕事を提案している会社どうしの競争 | 会社の数が多い、または同じくらいの規模の会社が並ぶ/違いが見えにくく、値段で比べられる/市場が伸びていない |
| 新規参入の脅威 | これから業界に入ってくる会社 | 始めるのに、設備や許可、お客さんとの長い付き合いがあまり要らない |
| 代替品の脅威 | 別の方法で、お客さんの同じ目的を満たす商品やサービス | 代わりの手段のほうが安い、手軽/お客さんが乗り換えやすい |
| 買い手の交渉力 | お客さんが、値下げや支払いの条件を求める力 | 売上が少数のお客さんに偏っている/お客さんがほかの会社に切り替える手間や費用が小さい/値段を比べやすい |
| 売り手の交渉力 | 仕入れ先や外注先が、値上げや取引の条件を求める力 | 替えのきかない材料や工程を、1社に頼っている/仕入れ先が少ない |
※強くなる条件は、代表的なものを筆者が整理した
表の中の「切り替える手間や費用」は、スイッチングコストとも呼ばれます。お客さんがほかの会社に乗り換えるときに掛かる手間や費用のことです。この負担が小さいほど、お客さんは乗り換えやすく、値下げも求めやすくなります。
代替品と競合は、混同しやすいものです。競合は同じ方法で同じ仕事を請ける会社で、代替品は別の方法でお客さんの同じ目的を満たすものです。たとえば部品の試作なら、同じように削って作る加工会社は競合で、お客さんが社内の3Dプリンターで作ってしまうのは代替品です。5つの力は、それぞれ「誰の動きが、自社の利益を削るか」を指していて、強くなる条件も力ごとに違います。
ファイブフォース分析でわかること
5つの力を並べると、業界のどこに利益を削る力が集まっているかが分かります。
たとえば、買い手の交渉力が強い業界では、仕事はあっても、値段をお客さんに決められがちです。代替品の脅威が強い業界では、競合に勝っても、お客さんが別のやり方に移っていきます。どこに力が集まっているかによって、手を打つ先が変わります。
そのため、ファイブフォース分析は、次のような判断の材料に使われます。
- 新しい業界や市場に参入するか、いまの市場から撤退するか
- 値段を上げられるか、上げるなら何を理由にするか
- どの取引先、仕入れ先、外注先との関係を深めるか
- 競合と同じ条件で競うか、別の条件を重視するお客さんに絞るか
小さな会社にとって、とくに見ておきたいのは買い手の交渉力です。お客さんを選べる会社ほど、値段を自分で決めやすくなります。反対に、売上の多くを数社のお客さんに頼っていると、値下げの相談を断りにくくなります。元請けからの仕事が売上の大半を占める会社は、5つの力の中でも、この力が強く出やすい立場です。ファイブフォース分析でわかるのは、業界のどこに利益を削る力が集まっているかで、それが参入や値段、組む相手を決める材料になります。
3C分析・SWOT分析・PEST分析との違い
ファイブフォース分析と一緒に出てくるフレームワークとの違いは、次のとおりです。
- 3C分析:市場・顧客、競合、自社の3つを見て、自社がどこで選ばれるかを考える。ファイブフォース分析は、3C分析の市場や競合を調べる道具として使える
- SWOT分析:自社の強み・弱みと、外の機会・脅威を並べて、打ち手を考える。ファイブフォース分析で分かった業界の力の動きは、機会・脅威の欄の材料になる
- PEST分析:政治・経済・社会・技術といった、社会全体の変化を見る。ファイブフォース分析は、それより自社に近い、業界の中の力を見る
使う順でいえば、PEST分析とファイブフォース分析で外部の環境を調べ、その結果をSWOT分析の機会・脅威の欄に書きます。3C分析を使う場合は、市場と競合を調べる工程で、ファイブフォース分析を使います。
3C分析のどの段階でPEST分析やファイブフォース分析を使い、その結果をVRIO(自社の強みが本物かをふるいにかける見方)やSWOT分析にどうつなげるかは、3C分析の記事で解説しています。
関連記事3C分析は、埋めた後に何を確かめるかで決まる【テンプレート付き】
ファイブフォース分析は外を調べる道具の1つで、分かったことはSWOT分析の機会・脅威や、3C分析の市場・競合の材料になります。
小さな会社は、5つの欄を手元の記録で埋める
大きな会社なら、業界の統計や公開されている情報で、5つの力を説明できます。小さな会社が自社の業界を見るときに、同じように統計から埋めようとすると、手間が掛かるうえに、自社のお客さんや仕入れ先との取引の実際とずれることがあります。手元の記録は業界全体ではありませんが、第8章で書くように、業界の線を自社が実際に受けている仕事の範囲で引けば、その範囲の5つの力として書けます。
小さな会社なら、5つの欄は、まず手元にある記録で埋められます。書き出す前に、どの仕事を対象にするかを決めておきます(決め方は第8章で説明します)。欄ごとに、書き出すものと、それが残っている記録を並べると、次のようになります。
| 力 | 書き出すもの | どこにある記録か |
|---|---|---|
| 業界内の競争 | 見積もりで比べられた相手と、その数 | 見積もりの控え、お客さんの記録の表の「結果と比べた相手」 |
| 新規参入の脅威 | 最近の見積もりで初めて名前を聞いた相手、同じ仕事の広告に新しく出てきた会社 | 見積もりの控え、失注したお客さんから聞いた話、検索結果と広告 |
| 代替品の脅威 | 失注の理由の「自社でやることにした」「別のやり方にした」、問い合わせが来なくなったお客さんの事情 | 失注の記録、取引先との打ち合わせで聞いた話 |
| 買い手の交渉力 | 取引先別の売上(いちばん大きい取引先1社と、上位3社の合計が、それぞれ売上の何割か)、値下げや支払いの条件の相談 | 会計や請求の記録 |
| 売り手の交渉力 | 仕入れ先と外注先の数、1社にしか頼めない材料や工程 | 仕入れの記録、外注先の一覧 |
※書き出すものは一例。業種によって変えてよい
見積もりで比べられた相手や失注の理由は、お客さんの記録を表で付けていれば、その列から拾えます。どの項目を記録しておくと、こうした分析にも使えるかは、CRMの記事で解説しています。
関連記事CRMとは?意味と、ツールを選ぶ前に決める記録の項目【テンプレート付き】
見る範囲は、最近半年から1年のあいだに結果が出た見積もりや問い合わせが目安です。数件しかなければ、その数件で書き、件数が増えたら見直します。比べた相手や失注の理由が分からない案件は「不明」と書き、想像で埋めません。一文は、分かっている案件から作ります。
書き出すときは、記録で確かめたこと、取引先などから聞いた話、そこからの推測を分けて書きます。代替品の脅威は、とくに推測になりやすい欄です。お客さんが社内で済ませると決めた場合、問い合わせ自体が来ないので、失注の記録には残らないことが多いからです。推測で書いた欄には印を付けておき、取引先と話す機会があれば確かめます。
ここでは、急ぎの小口の試作を請け負う、架空の部品加工会社で見てみます。KSFの記事やCRMの記事でも例にした会社です。手元の記録から5つの欄を埋めると、次のようになりました。
いちばん強いのは、業界内の競争でした。最近の問い合わせ7件のうち、結果が出た6件では、5件がほかの会社と比べられています。新規参入の脅威も強く、図面を送ると自動で見積もりが出るネットの試作サービスの名前を、この1年で初めて聞くようになりました。値段で失注したお客さんに、あとで聞いた話では、頼んだ先はこのサービスでした。このサービスは、この会社の強みである見積もりの速さそのものを、自動で見積もりを出すという形で持ち込んできています。
初めて名前を聞いた相手が、前からいたのに自社が知らなかっただけなのか、本当に新しく入ってきたのかは、その相手がいつから同じ仕事を受けているかで分けます。会社のサイトや広告が出始めた時期を見れば、見当がつきます。見分けがつかないときは、推測の印を付けて書いておきます。
すでに入ってきた相手は、見積もりで比べられれば、業界内の競争の欄にも名前を書きます。それでも新規参入の欄に書くのは、新しい相手が続けて現れること自体が、この仕事が始めやすくなっているという印だからです。ポーターも、利益を押し下げるのは、実際に入ってきたかどうかではなく、入ってこられるという脅威のほうだと書いています。
買い手の交渉力は中くらいです。試作の売上は多くのお客さんに分かれていて、上位1社でも売上の1割台なので、1社から値下げを強く求められる立場ではありません。ただ、お客さんの多くはほかの会社と比べて頼む先を決めているので、乗り換える手間は小さいといえます。売り手の交渉力は弱めです。材料の仕入れ先は2社あり、替えがききます。代替品の脅威は、記録には出てきませんでした。取引先から、社内の3Dプリンターで作る試作が増えていると聞いているので、推測の印を付けて「中くらい」と書いています。
強い・中くらい・弱いは、何割なら強いという線で決めるより、5つの欄を並べて比べて決めます。種類の違う事実を比べるときのものさしとして、筆者は、その欄の力が、いま利益にどれだけ響いているか(最近の半年から1年に起きた、値下げを受けた、失注した、値上げされた、お客さんが離れた、といった出来事の件数と、それで失った売上や利益の大きさ)と、これから増えそうかの2つで並べています。大きな取引先からの値下げ1件が、小口の失注数件より重いこともあります。ただし、1件の失注や値下げといった1つの出来事は、いちばん近い1つの欄にだけ数えます。新しく入ってきた会社に失注したなら、新規参入の欄です。
部品加工会社では、業界内の競争の欄に、表面処理までまとめて頼める会社に決まった失注が2件あり、比べられる場面も多いので強いとしました。新規参入の欄は、値段で失注した1件だけですが、相手が自動で見積もりを出す速さと、安い値段の両方で入ってきていて、これから増えそうなので強いとしました。どの欄にも利益に響いた出来事がほとんど無ければ、無理に強いを付けず、「いまは強い力が見当たらない」と書いておきます。記録が無い欄は、推測の印を付けて仮の強さを書き、強い力を2つ選ぶときは、記録のある欄を先に見ます。
5つの欄は、統計から埋める前に、取引先別の売上、見積もりと失注の記録、仕入れ先の一覧といった手元の記録で埋め、記録に無いものは推測の印を付けて書きます。
埋めた5つから、何をめぐって競争が起きているかを一文にする
5つの欄を埋めたら、強いと書いた力を2つまで選び、「自社の業界では、何をめぐって競争が起きているか」を一文にします。たとえば、価格、速さ、品質、まとめて頼めるかといった条件です。
2つまでに絞るのは、5つを同じ重さで並べると、どこに手を打つかが決まらないからです。2つという数は筆者の目安ですが、ポーターも2008年の論文で、いちばん強い力(1つとは限らない)が業界の利益を左右し、戦略を考えるうえでいちばん重要になると書いています。5つの欄は、業界の様子を見渡すために埋めます。そのうえで、競争を説明する一文に使うのは、強い力で起きていることだけにします。
部品加工会社の場合、強いのは業界内の競争と新規参入の脅威でした。受注の決め手には見積もりの速さが挙がり、失注した3件のうち2件は、表面処理までまとめて頼める会社に決まっていました。比べられているのは、見積もりの速さと、まとめて頼めるかで、そこに値段の安い新しい相手が入ってきています。一文にすると、「急ぎの小口の試作では、見積もりの速さと、表面処理までまとめて頼めるかをめぐって競争が起きていて、そこに値段の安い新しい相手が入ってきている」となります。
強い力が買い手や売り手のときも、同じ形で書けます。たとえば、売上の大半を元請け1社に頼っている会社なら、「元請け1社が売上の大半を占めていて、値段と納期をめぐる交渉で、こちらが条件を決めにくい」のように、誰とのあいだで、何をめぐって、どちらが条件を決めているかを書きます。買い手や売り手の一文は、KSFよりも、SWOT分析の脅威と、取引先との条件の見直しに使います。
この一文は、SWOT分析とKSFの2つに使います。
1つは、SWOT分析の機会・脅威の欄です。部品加工会社なら、「図面を送ると自動で見積もりが出るネットの試作サービスが、値段で比べられる相手として入ってきた」を脅威に書きます。一文には使わない弱い欄も、SWOT分析の機会の欄の材料にはなります。たとえば、材料を扱う商社が増えて、仕入れ先の替えがいっそうききやすくなっているなら、外の変化として機会の欄に書けます。どの強みをこの機会や脅威に当てるかは、SWOT分析で「どの強みを、どの機会に生かすか」を一文にするときに決めます。
もう1つは、KSF(重要成功要因)です。KSFの記事では、お客さんが頼む先を決めるときの条件を、市場のKSFと呼びました。この一文から、その条件は、見積もりの速さ、まとめて頼めるか、値段のあたりにありそうだと見当がつきます。ここで渡すのは、市場のKSFそのものではなく、業界の側から見た見当です。実際にお客さんが何を決め手にしたかは、KSFの記事で解説しているように、受注と失注の決め手の記録で確かめます。
SWOT分析の機会・脅威の欄を事実で書き、強みと掛け合わせて一文に絞る方法は、SWOT分析の記事で解説しています。
関連記事SWOT分析とは?基本の書き方と、一覧で終わらせず次の打ち手につなげる方法【テンプレート付き】
5つの欄から強い力を2つまで選び、何をめぐって競争が起きているかを一文にして、SWOT分析の機会・脅威と、KSFの見当に渡します。
同じ時期に起きた変化を、5つの力に分けて見る
同じ時期に起きた変化は、まとめて1つの理由で説明したくなります。5つの力に分けて見ると、それが別々の力の動きだと分かることがあります。SWOT分析の記事で、私はWeb広告の運用を始める前にファイブフォース分析をしていると書きました。同じ見方は、始めたあとに起きた変化を読むときにも使えます。この章は、検索や広告の数字を見ている場合の使い方です。数字を見ていなくても、第5章と第6章の手順で進められます。
私が関わった仕事で、問い合わせが減った時期に、検索と広告の数字を見直したことがあります。いくつもの変化が同じ時期に出ていて、その経過はKSFの記事で紹介しました。ここで取り上げたいのは、そのうちの2つです。1つは、頼まずに自分で済ませる方法を調べる検索が増えていたこと。もう1つは、同じキーワードの検索結果に、値段の安いサービスの広告が新しく出てくるようになったことです。
この2つを、ひとまとめに「お客さんが自分で済ませるようになったから」と受け取ると、値段の安いサービスの広告が説明できません。5つの力に当てはめると、2つは別々の力です。自分で済ませる方法を調べる検索は、お客さんが頼む以外の手段を探している動きなので、代替品の脅威に当たります。値段の安いサービスの広告は、同じ仕事を別の値段で請ける相手が入ってきた動きなので、新規参入の脅威に当たります。同じ時期には値段を調べる検索も増えていましたが、こちらはどちらの動きとも重なっていて、1つの力には決められませんでした。
分けてみると、打つ手も分かれます。代替品に対しては、自分で済ませた場合と比べて、頼む理由を伝える必要があります。新規参入に対しては、同じ値段で競うのか、値段以外の条件で選ばれるお客さんに絞るのかを決める必要があります。分けたからといって、問い合わせが減った分のうち、どちらがどれだけかまで分かったわけではありません。ただ、まとめて「お客さんが自分で済ませるようになった」とだけ見ると、打ち手は頼む理由を伝えることの1つになり、値段の安い相手への手当てが抜けてしまいます。
検索と広告の数字は、手元の記録に出てこない力を見る材料にもなります。第5章で書いたように、代替品の脅威は失注の記録に残りにくい力です。お客さんが頼まずに済ませる方法を調べているかどうかは、検索の数字のほうが先に教えてくれることがあります。検索結果で代わりの手段を見る方法は、3C分析の記事でも紹介しています。同じ時期に起きた変化も、5つの力に分けて見ると、別々の力の動きだと分かり、それぞれに合った打ち手を考えられます。
ファイブフォース分析で気をつけること
ファイブフォース分析を使うときに、気をつけたいことが3つあります。3つとも、ポーターが2008年の論文で、よくある誤りとして挙げているものです。
1つ目は、どこまでを同じ業界とみるか、つまり業界の線をどこに引くかです。線の引き方で、同じ相手がどの欄に入るかが変わります。部品加工会社の例で、業界を「削って作る部品加工」と取れば、3Dプリンターで試作を請け負う会社は代替品です。業界を「部品の試作」と取れば、同じ会社がいまの競合の欄に入ります。お客さんの社内の3Dプリンターは、どちらで引いても代替品です。線は、SWOT分析の目標で決めた仕事(この会社なら、急ぎの小口の試作)に合わせて引くと、あとで機会・脅威の欄に渡しやすくなります。ポーターは、線を引き間違えても、5つの力を丁寧に見ていれば、業界から外した近い商品は代替品として、競合として見落とした相手は新しく入ってくる会社として、どこかの欄に出てくるはずだと書いています。迷ったら、まず自社の仕事に合わせて引いてみて構いません。目標をまだ決めていなければ、売上がいちばん大きい仕事か、これから伸ばしたい仕事を1つ選びます。仕事が複数あるなら、仕事ごとに5つの欄を作ります。
2つ目は、5つを全部同じ重さで書かないことです。5つの欄は、どれかを空けると落ち着かないので、全部を同じくらいの分量で埋めたくなります。ただ、第6章で書いたように、競争を説明する一文に使うのは強い力だけです。弱い力は、弱いと一言書いておけば足ります。一方で、いちばん目立つ力が、いちばん利益を削っている力とは限りません。比べられる場面の多い業界内の競争は目に付きやすいので、代替品のように記録に出にくい力を、目立たないからといって弱いと決めないようにします。
3つ目は、一度で終わらせないことです。取引先の顔ぶれや売上の割合、仕入れ先、競合の顔ぶれは変わります。四半期に1回を目安に、取引先別の売上と、比べられた相手、失注の理由を見直します。大きな取引先が増えたり減ったりしたときや、新しい相手の名前を聞くようになったときにも、欄を書き直します。ファイブフォース分析は、業界の線を自社の仕事に合わせて引き、強い力に重みを置き、取引先や競合が変わるたびに見直します。
ファイブフォース分析のテンプレート
自社でファイブフォース分析をするときに使えるように、この記事の手順に沿ったテンプレート(Excel)を用意しました。ファイル1つに、次の5つのシートが入っています。
- 使い方:書く順番と、それぞれのシートで何を書くか
- 1_手元の記録を書き出す:5つの力ごとに、見る記録と、そこから書き出した事実
- 2_5つの欄を埋める:力ごとに、事実か推測かの印と、強さ(強い・中くらい・弱い)を書く
- 3_一文にする:強い力を2つまで選び、何をめぐって競争が起きているかを一文にする。SWOT分析の機会・脅威の欄に写す内容も書く
- 4_記入例:架空の部品加工会社で、5つの欄を埋めて一文にした例
「書き出す」「埋める」「一文にする」の順にシートを埋めると、SWOT分析の機会・脅威の欄に写す一文まで作れます。
ファイブフォース分析のテンプレート(Excel)をダウンロードする
※登録や個人情報の入力は要りません。クリックすると、Excelのファイル(ファイブフォース分析テンプレート.xlsx)がダウンロードされます。
ARROWSのブランディング
第3章では、売上の多くを数社のお客さんに頼っていると、値下げの相談を断りにくくなると書きました。ARROWSのブランディングは、値段だけで比べられにくくするために、お客さんに選ばれる理由を決めるサービスです。決めた理由は、タグラインや会社の紹介文など繰り返し使う言葉と、色や書体などの見た目の決まりにまとめます。
同じ第3章の、競合と同じ条件で競うか、別の条件を重視するお客さんに絞るか、という判断は、マーケティングコンサルティングでも、施策を選ぶ前に「狙うお客様と立ち位置」として整理します。どのような企業や人を対象に、何を強みとして選んでもらうかをARROWSと一緒に決めると、どの集客の施策から始めるかが決まります。
まとめ
ファイブフォース分析は、業界の競争の強さを、いまの競合に、新しく入ってくる会社、代わりになる商品やサービス、お客さん、仕入れ先を加えた5つの力で見るフレームワークです。小さな会社は、大きな会社の例をなぞるより、手元の記録で5つの欄を埋めるほうが、自社の業界の実際に近づけます。
まずは、取引先別の売上を出し、いちばん大きい取引先1社と、上位3社の合計が、それぞれ売上の何割になるかを書き出してください。次に、最近の見積もりで比べられた相手と失注の理由、仕入れ先と外注先の一覧から、残りの欄を埋めます。強い力を2つまで選んで、何をめぐって競争が起きているかを一文にしたら、SWOT分析の機会・脅威の欄に書き、KSFの見当にも使います。




