営業の属人化とは

属人化とは、仕事の進め方や、仕事に必要な情報が特定の人にしか分からず、その人がいないと仕事が進まない状態のことです。営業に限らず、経理や総務、社内のシステムの管理などでも使われる言葉です。営業の属人化は、お客さんとのやり取りや約束、商談の進め方が、特定の営業担当者の頭の中と手元にだけある状態を指します。

営業の属人化には、2つの面があります。1つは、やり方です。営業の属人化というと、成果を上げている担当者の話し方や提案の組み立てが、ほかの人に伝わっていないことを思い浮かべる方が多いかもしれません。本人は分かっていても、言葉で説明されていない知識やコツを、暗黙知と呼びます。

もう1つは、お客さんごとの記録です。誰と何を話したか、見積もりを出したか、まだか、断られたなら理由は何か、次に誰がいつ連絡するか。こうしたことが担当者の手帳や個人のメール、見積書の控えにだけあると、その人が休んだ日に、ほかの人はお客さんの問い合わせに答えられません。

お客さんとの話が1人の手元にあると、休んだ日に止まる お客さんとのやり取り お客さんA 見積もりの返事を待っている お客さんB 来月の予算で検討すると言った お客さんC 資料を送ると約束した 営業を受け持つ1人 頭の中 手帳・個人のメール 見積書の控え その人が休んだ日 見積もりの返事が止まる 約束した連絡が止まる ほかの人は答えられない 記録する場所が決まっていないと、お客さんごとの事実は、その人の手元にしか残らない
図1:営業の属人化の状態(筆者作成)

少ない人数の会社では、営業を社長か、ベテランの1人が受け持っていることが多いでしょう。お客さんとの話は、その人が全部覚えています。見込み客を集めてから商談にするまでの流れでいえば、名刺や問い合わせを1か所の表に書く「記録する」の段(集める・記録する・育てる・営業に渡す、の4つの段の2つ目)が、その人の手元で止まっている状態です。この流れの全体は、BtoBマーケティングの記事で解説しています。

営業の属人化は、お客さんとのやり取りや約束、商談の進め方が特定の人の頭の中と手元にだけあり、その人がいないと見積もりや連絡が止まる状態です。

営業が属人化する原因

営業が属人化する原因として、よく挙げられるのは次の3つです。

  • やり方が言葉になっていない:成果を上げている担当者の話し方や、お客さんとの関係のつくり方が、本人の経験と勘のまま残っている
  • お客さんの記録が、担当者の手元にある:手帳、個人のメール、見積書の控えなど、記録の置き場所が人ごとに違う
  • 個人の売上だけで評価される:記録を残すことや、ほかの人に伝えることが評価されないので、書く理由が生まれにくい

少ない人数の会社では、もう1つ加わります。書かなくても回ってしまうことです。その人が全部覚えているうちは、記録が無くても困りません。困るのは、その人が休んだときや辞めたときです。辞めたときには、もう本人に聞けません。

記録の属人化に共通するのは、書く場所と書くタイミングが決まっていないこと やり方が 言葉になっていない やり方の話(第5章) お客さんの記録が 担当者の手元にある 個人の売上だけで 評価される 書かなくても 回ってしまう 少ない人数の会社で加わる お客さんのことを、どこに、いつ書くかが 決まっていない その人のせいではなく、決まりが無いことから起きる(筆者の見方)
図2:営業が属人化する原因と、共通する根(筆者作成)

4つのうち、1つ目はやり方の話で、第5章で扱います。残りの3つは、お客さんの記録にかかわるものです。この3つに共通するのは、お客さんのことを、どこに、いつ書くかが決まっていないことです。私は、お客さんの記録が属人化するのは、その人のせいではなく、この決まりが無いからだと考えています。書く場所が決まっていなければ、忙しい担当者ほど、覚えておくほうが早いからです。

お客さんの記録の属人化は、担当者の性格や努力の問題ではなく、お客さんのことをどこに、いつ書くかが決まっていないことから起きます。

属人化のリスク:その人が休むと、何が止まるか

属人化のリスクは、その人がいなくなったときに表に出ます。休み、出張、退職、異動のどれでも起きます。止まるものを並べると、次のようになります。

止まるものいつ困るかお客さんから見ると
見積もりの返事返事を約束した日返事が来ないので、ほかの会社に頼む
約束した連絡(資料やサンプルを送る、電話する)約束した日約束を忘れられたと受け取る
断られた理由と時期をふまえた、次の連絡相手が次に検討を始めるころ連絡が来ないまま、ほかの会社で決まる
これまでに話した条件や経緯(納期、数量、前に頼まれたこと)をふまえた対応次の注文や、担当が替わったとき前に話したことを、また聞かれる

休みなら、戻ってくれば続きができます。それでも、見積もりの返事を約束した日が休みのあいだに来れば、お客さんはほかの会社に頼むかもしれません。退職や異動では、続きを知っている人がいなくなります。引き継ぎのときに資料をまとめてもらっても、その資料には、まとめた人が大事だと思ったことしか残りません。気になる点があれば、引き継いだ人がお客さんにもう一度聞くことになります。

長い目で見ると、会社の側にも影響があります。どんなお客さんに、どんな理由で選ばれ、断られているかが会社に残らないので、次に何に力を入れるかを決めにくくなります。ほかの人が営業を覚える手がかりも残りません。

営業が属人化していると、その人が休む・辞めるときに、見積もりの返事や約束した連絡が止まり、お客さんを待たせたり、失ったりします。

よく挙げられる解消方法と、少ない人数の会社で起きること

営業の属人化を解消する方法として、よく挙げられるのは次の5つです。

方法何を会社のものにするか少ない人数の会社での注意
営業の進め方の標準化商談の段階と、段階ごとにやること段階を決めても、お客さんごとに今どの段階かを書かなければ、その人の頭の中に残る
マニュアル・話し方の台本話し方や提案の手順作るのは営業を受け持つ本人で、作るあいだも営業は続く
ナレッジの共有うまくいった進め方や事例共有する相手が少なく、共有の場を回す人もいない
SFA・CRMなどのツールお客さんごとの記録と商談の進み入れても、何を書くかを決めなければ書かれない
評価制度の見直し記録や共有をする理由営業が1〜2人なら、制度より先に、書く場所と書くタイミングを決めるほうが早い

標準化、マニュアル、ナレッジの共有は、営業担当者のやり方を会社のものにする打ち手です。評価制度の見直しは、記録や共有を続けてもらうための仕組みです。営業担当者が何人もいる会社では、成果を上げている担当者のやり方をほかの人に移せれば、全体の成果が上がります。

ただ、少ない人数の会社で、やり方を型にするところから始めると、時間がかかります。マニュアルや営業の進め方を作るのは、営業を受け持っているその人です。作っているあいだにも、お客さんとのやり取りは増えていき、その事実は、その人の頭の中に残ったままです(筆者の見方)。

ツールにも、先に決めておくことがあります。ツールはお客さんごとの記録の置き場ですが、CRMの記事で書いたとおり、何を残すかは決めてくれません。そこで、少ない人数の会社では、手を付ける順番を変えます。

よく挙げられる解消方法の多くは、やり方を会社のものにする打ち手で、少ない人数の会社では、そこから始めると時間がかかります。

やり方を型にする前に、その人がいないと連絡が止まる情報を表に移す

営業を受け持つ人の頭の中にあるものは、2つに分けられます。

  • やり方:話し方、お客さんとの関係のつくり方、値決めの勘
  • お客さんごとの事実:誰と何を話したか、見積もりの状態、断られた理由、次に誰がいつ連絡するか
先に表へ移すのは、やり方ではなく、お客さんごとの事実 営業を受け持つ人の頭の中にあるもの やり方 話し方 お客さんとの関係のつくり方 値決めの勘 お客さんごとの事実 誰と何を話したか 見積もりの状態 断られた理由 次に誰がいつ連絡するか あとから言葉にする 言葉にするには、振り返る時間が要る 表にたまった事実が材料になる 先に表へ移す 話した日に、話したことを書き足せる 書いた日から、ほかの人が使える 事実は、まとめた言葉ではなく、起きたことのまま書く
図3:営業を受け持つ人の頭の中にある2つと、先に表へ移すほう(筆者作成)

私は、少ない人数の会社では、先に表へ移すのは事実のほうがよいと考えています。理由は2つあります。

1つは、事実は、話した日に、話したことを書き足していけることです。やり方を言葉にするには、本人が自分の仕事を振り返り、整理する時間が要ります。

もう1つは、書いた日から、ほかの人が使えることです。その人が休んだ日にお客さんから電話が来ても、表を見れば、見積もりを出したかどうかと、次に何を約束していたかが分かります。電話を受けた人は、少なくとも「いつまでに、誰から連絡します」と答えられます。

やり方を言葉にすることが要らない、という意味ではありません。事実が表にたまっていくと、どのお客さんに、どんな理由で選ばれているかが見えてきます。その人のやり方のどこが効いているかを言葉にするときに、その記録が材料になります。

事実を書くときは、その人がまとめた言葉や社内の区分の名前ではなく、起きたことや、お客さんが話したことを書きます。私が関わった仕事で、問い合わせの記録を見直したときに、問い合わせのきっかけを書く欄に、実際のきっかけではなく、社内であらかじめ決めていた区分の名前が書かれていたことがあります。記録はあるのに、お客さんが実際に何をきっかけに来たのかは、その記録からは分かりませんでした。まとめた言葉は、まとめた人の分け方で書かれています。その人に聞けなければ、もとの事実には戻れません。CRMの記事で、失注の理由をお客さんが言った言葉のまま書くとしたのも、同じ理由です。

お客さんごとの事実は、CRMの記事で紹介した顧客の表(問い合わせ1件を1行に書く表)に記録できます。一から別の表を作る必要はありません。ここでは、CRMの記事と同じ、急ぎの小口の試作を請け負う部品加工会社(架空)の例で当てはめます。

お客さんごとの事実部品加工会社(架空)の例CRMの記事の表では
誰と何を話したかH社の設計の担当者から電話。図面を受け取り、「材料は相談したい」と言われた経過(日付をつけて書き足す)
見積もりの状態H社:見積もりはまだ。今週中に出すと伝えた次の連絡(「受けた人が金曜までに見積もりを送る」のように書く)
断られた理由D社:ほかの会社のほうが価格が安かった決め手・失注の理由
次に誰がいつ連絡するかG社:受けた人が1月中旬に電話(来期の予算を組む前)次の連絡

※D社・G社はCRMの記事の表と同じ会社で、G社の次の連絡はナーチャリングの記事で書き直したもの、H社はまだ表に無い新しい相談

列の決め方と、列ごとに何を書くかは、CRMの記事で解説しています。

関連記事CRMとは?意味と、ツールを選ぶ前に決める記録の項目【テンプレート付き】

少ない人数の会社では、やり方を型にする前に、その人がいないと連絡が止まる、お客さんごとの事実を、起きたことのまま表へ移します。

足りない行と列は「その人が明日から2週間休んだら」で見つける

表を作っても、すべての事実が入っているとは限りません。足りないものを見つけるために、営業を受け持つ人に、次の問いに答えてもらいます。

「明日から2週間休むとしたら、そのあいだに止まる連絡はどれか」

手帳や送信済みのメール、カレンダーを見ながら、1件1行で書き出してもらいます。見積もりの返事を待っている相手、来月の予算で検討すると言っていた相手、展示会で会って資料を送ると約束した相手などです。社長が自分で営業を受け持っているなら、自分で書き出します。

すでに表があっても、入ってきた名刺や問い合わせを並べて確かめるやり方では、受注したお客さんとの約束や、まだ表に書く前の相談は出てきにくいものです。そこで、ここでは先の予定のほうから探します。

2週間は筆者の目安です。1日や2日なら、戻ってから連絡すれば間に合うものが多いでしょう。2週間あると、見積もりの返事や、約束した連絡の日を越えるものが出てきます。休みでも、出張でも、退職の引き継ぎでも、思い浮かべやすい場面でかまいません。

表がまだ無いなら、第5章の表の右の列に、会社名と先方の担当者を足した形から始められます。列の決め方と、どの問い合わせから入れ始めるかは、CRMの記事で解説しています。

書き出した連絡を、表と1件ずつ突き合わせます。足りないものが見つかったら、次の3つのどれかで補います。

「2週間休んだら止まる連絡」を書き出し、表と突き合わせる ① 書き出す 明日から2週間休んだら止まる連絡を 手帳・送信済みのメール・カレンダーを見て1件1行で ② 表と1件ずつ突き合わせる 行があるか、要る列があるか、 欄が埋まっているかを見る 表に行が無い その相談の行を足す 足りない行 行はあるが、要る列が無い 列を足す 足りない列 列はあるが、空いている 誰が・いつ連絡するかを書き足す 空いている欄 2週間は筆者の目安。休み・出張・退職の引き継ぎのどれを思い浮かべてもよい
図4:表に足りない行と列の見つけ方(筆者作成)
  • 表に行が無い:その相談の行を足す(足りない行)
  • 行はあるが、その連絡に要ることを書く列が無い:列を足す(足りない列)
  • 列はあるが、空いている:書き足す(空いている欄)

第5章の部品加工会社で、営業を受け持つベテランが書き出すと、次のようになったとします。

2週間休んだら止まる連絡表と突き合わせると直すこと
H社:今週中に見積もりを出す表に行が無い行を足し、誰がいつ見積もりを出すかを日付で書く
展示会で名刺を交換したI社:サンプルを送ると約束した表に行が無い行を足し、誰がいつサンプルを送るかを日付で書く
A社:11月上旬に電話(次の試作の予定を聞く)表にあるが、先方の誰に、どの番号で電話するかは本人しか知らないお客さんの担当者の欄を埋め、連絡先の列を足す
C社:納めた治具の具合を、月末に電話で聞く行はあるが、次の連絡が空いている次の連絡に「受けた人が10月末に電話(治具の具合を聞く)」と書き足す

※架空の例(筆者作成)。A社・C社はCRMの記事の表と同じ会社

この例では、足りない行が2つ、足りない列が1つ、空いている欄が2つ見つかりました。先方の担当者の連絡先(電話番号やメールアドレス)は、CRMの記事の例の表にも、テンプレートにも無い列です。会社名だけでは、その人がいないときに、ほかの人が誰に電話すればよいか分かりません。テンプレートの「お客さんの担当者」の欄が空いていても、同じことが起きます。HubSpotの記事でも、ツールに移す前に、お客さん側の担当者のメールアドレスの列を足すように書いています。

表に日付があっても、次に連絡する人が休む本人なら、その日の連絡は止まります。突き合わせるときは、誰が連絡するかも見ておきます。休む本人なら、代わりに連絡する人を決めて書き直します。

次の連絡を書くときは、誰が連絡するかと、「そのうち」ではなく月や日付まで書きます。書き方と、連絡する日の決め方は、ナーチャリングの記事で解説しています。

関連記事ナーチャリング(リードナーチャリング)とは?いまは買わない見込み客に、次に連絡する時期を決めて育てる方法

表に足りない行と列は、営業を受け持つ人に「明日から2週間休んだら止まる連絡」を書き出してもらい、表と突き合わせて見つけます。

表を続ける分担と、ツールに移す目安・外部に頼めること

表を書き続けなければ、新しい事実が、またその人の手元だけにたまっていきます。誰が書き、誰が月に1回見直すかの分け方は、BtoBマーケティングの記事の「専任がいない会社は、1枚の表と月1回の見直しで回す」で解説しています。月に1回の見直しのときに、営業を受け持つ人に、第6章の問いにもう一度答えてもらうと、表に入っていない連絡がまた増えていないかを確かめられます。

表で、次の連絡の日を見落とすようになったり、経過の列が長くなって、担当が替わったときに前のやり取りを追いきれなくなったりしたら、CRMのツールに移す時期です。移す目安はCRMの記事の「表で困りごとが出たら、ツールに移す」で、HubSpotに移す方法はHubSpotの記事で解説しています。

外部に頼めることもあります。表の作り方の相談、CRMやHubSpotの設定、いまの表の取り込みなどです。事実を表に書くのは、お客さんと話した人です。電話の代行などを頼んだときは、頼んだ会社にも同じ表に書いてもらいます。

記録は自社の表に置く。ツールの設定や取り込みは頼める 自社でやる 記録を置く表を、自社で持つ 2週間休んだら止まる連絡を書き出す 月に1回、表を見直して決める 頼める 表の作り方の相談 CRMやHubSpotの設定 いまの表の取り込み 電話の代行などを頼んだら、頼んだ会社にも同じ表に書いてもらう
図5:自社でやることと、外部に頼めること(筆者作成)

頼んでも、記録は自社の表か、自社で持っているツールに置きます。頼んだ会社の担当者の手元にしか記録が無いと、同じ属人化が、今度は外の会社で起きるからです。頼んだあとの分担と、月に1回の見直し方は、マーケティング支援会社の記事で解説しています。

関連記事マーケティング支援会社とは?会社を比べる前に、どこを頼むかを決める選び方

ツールの設定や表の取り込みは頼めますが、記録を置く表と、止まる連絡の書き出し、月に1回の見直しは、自社に残ります。

ARROWSのHubSpot導入支援

第7章の困りごとが出て、表からツールに移すとき、HubSpotに移す場合は、ARROWSのHubSpot導入支援でお手伝いします。始める前に、お客さんの情報がどこに何件あるか、名刺が何枚あるか、問い合わせから受注までの流れを確かめます。第5章・第6章で整えた表があれば、それを取り込む元にします。

設定の前に、第5章の事実を記録する項目と、問い合わせから受注までの段階を決めます。記録しておけば、お客さんごとの連絡先・メールのやり取り・商談の進み具合が1つの画面で見られ、担当者が休んでいても、ほかの人がこれまでのやり取りを確かめられます。設定が済んだら、使う人に記録の仕方をお伝えします。記録を書くのは、第7章のとおり、お客さんと話した人です。

導入したあと、見込み客へのメールの配信まで任せたいときは、HubSpot運用支援で引き続き引き受けます。

まとめ

営業の属人化で先に困るのは、お客さんごとの事実が、その人の頭の中と手元にしか無いことです。少ない人数の会社では、やり方を型にする前に、誰と何を話したか、見積もりの状態、断られた理由、次に誰がいつ連絡するかを表へ移します。足りない行と列は、その人に「明日から2週間休んだら止まる連絡」を書き出してもらい、表と突き合わせて見つけます。

まずは、営業を受け持つ人に「明日から2週間休んだら止まる連絡」を書き出してもらってください。自分で営業を受け持っている場合は、自分で書き出してみてください。